第1082話:ベニ・ガトロ~水攻め~

「ダンジョン攻略とかもう水攻めで良くない?」

 そう言い出したのはパーティの誰だっただろうか、一番やる気のないシグだっただろうか、効率を求めるナンマイだったか、それとも暑さでおかしくなったフーロウだったか。

 もう誰が言い出したかも覚えてないようなことが発端だったが、本当に今からダンジョンを水攻めすることになってしまった。


 水攻めを提案されてから少し議論になって、オープンな場で話していたため周りに人が集まってきて、実際に水攻めは効果的なのか、実際にやるとしたらどういう準備が必要なのかという形でどんどん話が大きくなっていって、なんだかんだ今日という日を迎えてしまった。

 いや、水攻めて、ダンジョンを水攻めて。

 検証に使うダンジョンは【ウルデラアニア】と呼ばれている複雑な形状の地下遺跡で、複数の世界のダンジョン由来のモンスターがひしめき合っている。

 とくに取れる素材も貴重なものではなく、遺跡に隠されている宝物の類も取りつくされた、所謂無くなっても誰も困らないダンジョンだ。

 水は空間接続の魔術が使える魔術師が多数召集されて、いや興味本位で集まってきて大海に接続するらしい。

 ダンジョン入り口にパイプを繋いで、空間を接続するためのマーカーをパイプの逆側に接続。

 あとは空間を接続するだけだ、周りに集まったやじうまをフーロウが扇動し、カウントが始まる。


 3・2・1・注水!


 ダボボボボ!!!という大きな音が響きどんどんダンジョンに水が流し込まれていく。

「しかしこれ、思った以上に絵面が地味だな」

 シグが言う。

「まぁ、パイプの中を水が通ってるのを見ているだけだからな」

 ナンマイも言う。

「計算によれば遺跡内部の構造を満たすだけの水が流れ込むのにかかる時間は順調にいってもおおよそ6時間ほどです」

 パーティ外から企画に参加していた誰かが言った。

「結構かかるな」

「それまで暇なのか?」

「また後で来ようぜ」

 やじうまはそう口々に言うと去って行った。

 そうして、空間接続の魔術師と俺たちと、一部の企画に携わった者だけが残った。

 その後、人数が少なくなったこともあり、バーベキューをしたり、肉の匂いにつられてやってきた野生動物を追い返したりしながら時間を潰して、そろそろ暇になってきたなというタイミングで、魔術師の一人が

「そろそろ満タンになるころ合いじゃないですか?」

 と言った。

 確かにそろそろ六時間ぐらいたっている。

 やじうまも結構戻ってきていた。

「感覚的にはまだ入りそう~」

「あとどれぐらいですかね」

「それはわからないけど、いったん止めて確認しに行ってみる?」

「そうしてみましょう」

 一度水を入れるのを止め、有志でダンジョンの様子を確認しに行ってみることになった。


 遺跡の中は水浸しで滑りやすくなっていて、ところどころに海藻や砂が落ちている。

 しかし階段をどれだけ降りても水が溜まっているということは無く、水没しているという感じはない。

「ダンジョンに水攻めはもしかして効果ないのかね」

「でもモンスターの姿もないし、流されたのでは?」

「それはあるかもしれない」

「もう少し下まで行ってみたらさすがに水に沈んでいるだろう」

 そう言いながら下まで潜ってみたところ、最下層に近いところまできてやっと水面が見えた。

「全然沈んでないな」

「というかこの水面、徐々に下がって行ってない?」

「まさかこの遺跡、排水機能が十全に生きているのでは?」

「あー、排水か。水攻めしても排水されたら意味ないかもな」

「もどろっか」


「えー、ダンジョンを水攻めしてみた結果、一時的にモンスターは流されるが、ダンジョン自体の排水機構が強いと沈め切るのは不可能という結果になりました! お付き合いいただきありがとうございます!」

 そう。フーロウが締めて解散になった。


 後日、ウルデラアニアに出てくるモンスターの種類が海系に寄ったという話を聞かされた。

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