第1072話:フトウ・レカッテ~絵を禁止された町~
「もしかして旅の絵描きさんかい?」
「ええまぁ、わかります?」
「そりゃあ、そんな画材を背負ってりゃあな」
「ですよね」
「せっかく来たところ悪いんだが、早くこの町から出た方がいいぜ」
「どういうことだい? ここの町並みは素晴らしいから、ぜひ絵に描きたいと思ってきたのだけど」
「詳しいことはここじゃだめだ、付いてきてくれ」
「ここは……」
「私のアトリエだよ。ここなら話は外に漏れない」
「君も絵描きだったんだな、ならばなぜ町を出ろなんて」
「この町では絵を描くことが禁止されているからさ」
「なんだって?」
「ここがわざわざ地下深くにあるのもそのためさ、この町では一切の『絵を描く』という行為が禁止されている。それがたとえ、メモ帳への落書き程度の物だとしてもね」
「なんでそんな……」
「この町が絵で栄えた町だからさ」
「意味がわからない、なんで絵で栄えた町が絵を禁止しているんだ?」
「昔、高名な絵描きが多くこの町に住んでいて、彼らの絵はこの町を豊かにした。しかし彼らが亡くなった後、優れた絵描きは現れなかったんだ」
「天才が現れる時期が集中することはよくあるな」
「そこで町の長は考えた、駄作を増やされて絵で栄えた町の『絵』という概念の価値を落とされてはたまらない。これ以上絵が増えないようにしようとね」
「愚かすぎる……」
「まぁそういう理由で、この町では絵を描くことが禁止されているというわけだ。昔の絵描きの絵をまとめた美術館はあるがね、あそこは一見の価値はあるから、画材を持たずに訪れてみるといい」
「なるほどな……、この町のことはよくわかった。最後に一つ聞かせてくれ」
「なんだい?」
「君はなぜこの町で絵を描いている。わざわざこんな地下にアトリエを構えてまで」
「ああ、そのことか。そりゃあ、この絵を禁止するっていうクソみたいな法律をぶっ壊すために、権力者にぐぅの音も出ない出来の絵を叩きつけてやるためさ」
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