第1073話:チウキ・トウツキ~海での遊び~

「夏だから海へ行きたいと言うから連れてきたんだが、なんだその不満そうな顔は」

「だって、これ私の想定した海じゃないですし」

「どこがだ、青い空、白い雲、しょっぱい潮風、揺れる船、遠くで跳ねる海獣、どう切り取ってどう解釈しても海だろう」

「私が行きたかったのは浜辺であって沖じゃないんですよ! コンクリで固められた港に吐いたときはここから船で島かどこかのビーチへ行くのかと思いましたけど、まさかそのまま沖に出るとは……」

「解釈違いってやつだな」

「というか、こんな沖まで出てきてどんな遊びをするんですか、これ足付かないでしょ?」

「釣り具は用意してあるから、釣りでもしようじゃないか」

「いやです、釣りは退屈なので」

「じゃあどうするんだ?」

「私は私でここでもできる海らしい遊びを考えます」

「そうか、あんまりへりから身を乗り出すなよ。落ちるぞ」

「わかってます!」


「どうです? 釣れます?」

「一匹もかからん、この辺りの魚どもはよっぽど用心深いと見た」

「もしかして釣れないとお昼ご飯無しとかだったりします?」

「腹が減ったなら中に冷蔵庫がある、そこにインスタントがいくつか入ってるから、適当に食ってろ」

「いえ、釣りの結果が不調で私が割りを食うのが嫌なだけだったので、心配ないならもう少し見てますよ」

「海らしい遊びってのはどうした?」

「こう、釣れない釣り人を煽るのも海らしい遊びといえばそうなのかなって思いまして」

「さよけ」

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