第1063話:ズゥチ・イノリタ~キャトル~

「またやられたよ」

 牧場に出てみると牛の死体が転がっている。

 最近は頻繁にこうして牛が死ぬ。

 しかも奇妙なことに見た目は変わらないのに質量が一割以下になって死んでいる。

 死体を片付けるのには軽い方が楽だが、肉として出荷するとなると軽くなれば売値は下がる。

 そもそも出荷基準に満たない成長具合で死んでしまっているから本当に困っている。

 原因は不明だが、とりあえず外的要因であることだけは確かだ。

 そう、こういう原因不明の怪死はあれだ、宇宙人の仕業と相場が決まっている。

 所謂キャトルミューティレーションという奴だ。

 当然対策というか、原因究明のために夜はカメラを配置して深夜監視を強化しているのだが、カメラにはなにも変なものは映ってはいない。

 カメラにはなにも映っていないのに実際には牛が怪死する、これはいかにも宇宙人の仕業という気がする。

「しかし、宇宙人っていう概念がこの世界じゃありえねぇんだよなぁ」

 宇宙が無いというのもそうだが、別文化圏の存在ですら同様にターミナルで生まれて一律の案内を受けてからこの世界で暮らしているから、別文化圏の存在が研究目的で誘拐実験を行っているというのはあり得る話ではない。

 だから、どういう解釈をしようとこの牛の質量を奪って殺している何者かはただの謎技術力を持った迷惑な牛殺しでしかないのだ。

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