第1044話:トロニボ・イケン~時間の進む道~

「この小路のうわさを聞いてきた? 最近はそういう人も減ってたんだけど、珍しいわね」

 私が小路の管理を任されて数年、久々に私を訪ねる客が来た。

「時間を進める小路だったか、本当なのか?」

「噂は本当だけど、望んでいるものかどうかはわからない。今まで来た人たちは皆がっかりして帰っていった」

 この小路は時間を進める小路、進めば未来、戻れば過去というように時間を自由に移動できるものだと噂されている。

 その噂は本当で、この小路を進めば未来に進み、戻れば過去に戻れる。

 その性質は危険でもあるので、こうして私が番人としているわけなんだけど……

「俺は早く来てほしい未来があってここに来た、この小路を進めばいいんだよな?」

 話を聞かない感じ、来る人はだいたいこうだ。

「そう、進めば未来へ行ける。ただし進みすぎると未来へ行き過ぎて死ぬから気をつけること」

「わかった、気を付ける」

 仕方ないので定型文な忠告と、渡すものだけ渡してしまう。

「ならばこれを持っていくといい」

 渡したのは腕時計、今が何時いつであるのかを示すものだ。

「ありがとう」

 そう言って彼は道を進んでいった。

 まぁ、すぐに戻ってくるだろう。

 なんたってこの小路、未来へ進んでもその未来で外へ出る手段がない。

 左右は途切れることのない塀があり、上には見えない天井がある、帰るには元の道を過去に向かって戻るしかないのだ。

「お帰り、どうだった?」

「……知っていたな?」

「まぁ、望むものではないとさっき言った通り、同じ時に戻ってこれるだけまだましだと思ってくれ」

 昔はこういう望みを持ってきて、思ってたのとは違ったと帰るものが多かった。

 最近は正確な話が広まったらしく、こうやって話を聞かないやつがたまに来る程度になったから、番人の仕事も随分楽になったな。

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