第1036話:フダニガーダ~椅子~
「お、そろそろ行くか?」
「うん、ちょうどキリが付いた。それにここもそろそろ寒くなりそうだからな」
しばらく岩陰で彼に座られながら寝ていたが、どうやらそろそろ移動するようだ。
「よいしょ」
彼に背負われて、適当に質量を別位相に移す。
「これで大丈夫だな」
「うん、ありがとう。じゃあ、行こうか」
こうやって彼に背負われて旅をし始めて、どれぐらいたっただろうか。
人の暦はよくわからんし、彼は様々なところを歩いて回っているので季節を見て時を見るのも難しい。
「そうだなぁ、もう30年ぐらいじゃないかな」
彼に聞けばそう答える。
まぁそんなもんか、彼も出会ったばかりの頃と比べたらずいぶん大きくなったものだ。
大きくなっても座られるのに支障はないが。
「そういえば、君はなぜ私を椅子として使う?」
たまにこの質問を私は投げかける。
「結構な回数答えたと思うんだけど……、便利だからかな。君は座りやすいし、重くない」
「椅子として優れているからということだな」
私は本来人の尻を支えるようなものではないが、どうにも具合がいいらしい。
「それなら、普通の椅子の方が優れているだろう? 座るために作られたもので、私より座り心地が良いものが無いというのもおかしな話だろう」
「あと、君は博識だからね。なんども助けられたよ」
「それはそうだな、龍たる私が人の子に知識で負けるものではない」
「そういえば、僕も聞いていいかい? 龍の君がどうして僕の椅子なんてやってるのか。ここ30年ずっと気になっていたんだ」
「ん、そんなことか。私は生来ものぐさでな、かといって知を求める龍の性質は持つ。君についていけば足は君、私は知を授けながら寝ているだけで様々なものを見られる。これは都合がよいだろう?」
なんだかんだで、お互いがお互いを利用している関係なわけだ。
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