第1033話:タイト・ブライニー~形状破綻~

「うーん、なるほど」

 持ってきてもらった鏡を見てつぶやく。おや、意外にも発声はうまくできてる。

「あちらに調整室があるので、あちらで直してくると良いですよ」

「どうもありがとうございます」

 転生とやらをしたみたいな感じなんだけど、体の形状情報が引き継がれなかったらしく、見た目がぐちゃぐちゃになっている。

 私と同郷のひとにはよくあることらしいが、体の形状を微調整以外で直すのは久々なので、少しワクワクする。


 案内された調整室に入って設備を確認する。

 鏡と、各種カラーを参照できるカラーパレット、自由に使用できる支え台等十分な設備があるな。

 あとは、最近の流行を網羅した雑誌。

 いいね、この調整室を作った奴はわかっている。

 たまに化粧直しのトイレじゃないんだからってぐらい鏡意外何も置いてない調整室はあるが、ここはそれとは違って、至れり尽くせりという奴だな。

 えーと、まずはどうするんだったかな。

 今のままではまるで生まれたばかりの肉塊が少し調整されて動くのに支障ない程度な形状でしかないから、ほぼ一から調整するようなものだ。

 どういう形を目指そうかもまだ固まってないし、前の姿は長い調整の果てで今すぐアレを再現するのも難しい。

 そんなことを考えながら、怪しい触腕程度の手で雑誌をめくり、標準の眼で中を確認する。

 へぇ、こっちではこんなのが流行ってるんだな、やはりここを用意してる人はわかってるな、形状調整入門から記事がある。

 これは助かる、とりあえずチュートリアル的に書いてある形状を目指して形成してから、流行りとか趣味とかを加味して形成しよう。


「どうなってるんだ……」

 調整を始めてから数時間、一向にチュートリアル通りの形成ができないし、形成勘が戻らない。

 一から作るのってこんなむずかしいものだったかな……

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