第1002話:パース=ノルノ~泉質~

「いやぁいい湯ですな」

「ええ、誘っていただいて、ありがとうございます」

「いやいや、礼は後からナットのやつに言ってくださいよ。今は壁の向こうですけど」

 ナットの奴が当てた温泉旅行にテルヴィアの開発室から、何かと縁があるウナ博士とメロウ助士を誘ってやってきた。

 今はのんびり湯に浸かって男二人の気兼ねない話をしよう。

「聞こえてますよー」

「なんだそれ、どういうアイテムだ?」

 どこからか声が聞こえてきた、この壁ってそんなに薄いか?

「まさか、ナットお前なんか変なもん持ち込んでるんじゃないだろうな? お前そういうことよくやるからな」

「え、室長達こっち覗いてるんじゃないでしょうね?」

「音声伝送をー任意の点間でー行うアイテムでーつたえるくんですー、伝送部にのみ魔法的な要素をー持たせているのでー、ウナさんでもー使えるのですよー」

「なるほど、部分の役割によっては魔術を用いても、私のような者が使えるのか。興味深い」

 だんだん研究者の会話になってきたぞ。

「それ、温泉に入りながらする会話じゃなくねぇか?」

「室長ほんと、やる気出るタイミングおかしいですよね」

「お、ちょっと待て。他の人が来た、さすがに俺ら以外がいるところでそれを使ってるのはまずい。さっさとしまえ」

「そうですよ、変態扱いされますよ、たぶん僕らが」

「そうか、仕方ない。ナット君、名残惜しいが切断しようか」

「しかたないですなー」

 そのやり取りをして、声は途切れた。

「まぁそろそろいい時間だから上がるか」

「そうですね」

 湯の温度もそこそこ高いし、だいぶ茹だってきた。

 軽く体を流しだけして、二人して上がる。


「あの二人遅くねぇ?」

「何やってるんですかね?」

 上がってしばらく待っていたんだが、ナットもウナさんも一向に上がってこない。

「また何か技術的な話で盛り上がってるんですかね?」

「悪い癖だ」

 そんな話をしていたら二人が出てきた。

「やぁやぁ、待たせたかな?」

「うーなー」

「ナット、大丈夫か?」

 茹だりすぎで真っ赤になっている。

 呂律も回ってないし、かなりダメそう。

「だーじょーぶですよー、このー、さますーくんーをつかーえばー、この通りですよー」

 おぼつかない手で取りだしたアイテムを使った途端に普段のしっかりしてるとは言い難い口調にもどる。

「それいいな」

「残念ながらー、これは熱を扱うーところにー魔術をつかっているのでー、ウナさんにはーつかえないのでー」

「いやいや、ネタだけ参考にだな、うちでも作ってみようかと思ってるんだ」

 この二人は、どうしてこうも技術狂いなのか。

「仲いいですね」

「方向性が同じなんだろ」

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