第998話:ガムチ・シンバニア~殺意不明~

「あ、殺したい」

「どうした、突然物騒なことを言いだして」

 日向の椅子に座って呆けていたと思ったら突然そんなことを言いだした。

「何か俺にむかついたか? それなら殺す前に言ってくれ」

 ぼけっとしている奴で、いつも突拍子の無い奴ではあったが、突然殺したいなんて言い出すとは思わなかった。

「いやガムチに不満は無いけど、なんとなくこう、ふわーと殺意のようなものがこの辺に」

 そう言って斜め上辺りを示す。

 ふわーってのは殺意につける擬音としては不適切なようなきもするが、どこからか流れ込んだ感情だろうか。

「お前が殺したいわけではないのか」

「いや、殺したいのは僕なんだけど」

「お前の殺意なのそれ?」

 確かにまぁ、それならふわーという擬音もわからなくはない、か?

「それがお前の殺意だとして、どこに向けた殺意なんだ? 殺したいってことは誰かに嫌な思いをしたんだろう?」

「……? 別にそんなことはないけど?」

 きょとんとした顔で返すんじゃない、それは今「殺したい」って言った奴の顔じゃないぞ。

「だって、ふわーって殺意が湧いてきただけで、特定の誰かに恨みがあるわけじゃないけど」

「殺意ってそういうもんなの?」

「そのうち散ると思うけど……」

「殺意ってそういうもんなの?」

 あいかわらずよくわからない奴だこいつは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る