第981話:コウラジ-ヘビン~転じて~

「災いを転じて福となす、ねぇ……」

 異国の技だという。不運や悪意によって不利益を被る時に、それを自分の利益に変えることができるという、とんでもない技だ。

「本当にそんな技が存在するのか?」

「ああ、本当だ。実際に使い手とも会って話したことがある」

 どうにも胡散臭い。

 運をよくする程度の魔法やおまじないはいくつも存在しているが、起きた災いを反転させるっていうのは全く思い当らない。

「その人はどんな災いを幸運にしてたんだ?」

「そうだな……例えば家が燃えたんだけど」

「いや待て待て、家が燃えたのを利益にして挽回するのは無理だろう、しかも家が燃えたことと直接の因果が必要なんだぞ? その、災いを転じて福となすって技で利益にするってことは」

「まぁ慌てんなって。そいつはな、笑いながらこう言ったんだよ「ああ、これで引っ越しをする決心がつきました、もうだいぶ古くなってて出ようか迷っていたんですよね」ってさ。その日のうちに次の住居を決めてたよ。ちなみにめっちゃいいとこ」

「なるほど……?」

 確かに、踏み出すきっかけになったかと言えばなったのか、でもこれって……

「考え方の問題では?」

「何言ってんだ、そうだよ。考え方だ、なんか悪いことがあった時に悪いことがあったで終わっちゃあただの災難だろうが。でもこういういいこともあった、って風にしたら笑い話にもしやすいだろ。災いを転じて福となすってのはそういう話だよ」

「まじないの類ではなく?」

「心持の話だな」

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