第959話:ボウク・ソトリア~根無し草~

 根無し草という言葉がある。

 所謂、住所不定、職業不定、場合によっては名も不定、基本的な寄る辺もない、故に地面に根を張らない草に例えられて根無し草と呼ばれている。

「だったよな?」

「僕もそう記憶しているが……」

「今日の仕事は?」

「広場にたむろしてる【根無し草】を追い払ってくれ、という話だったと思う」

「だったよな……」

 して、広場の様子を見る。

「じゃあ、あれは住所不定で、定職のない、かつ名前も不定なのかね……?」

「まぁ、一応のところそう見えるかな……」

 そこにたむろしていたのは、草だ。

 草……だが、ただの草ではない、ふわふわと、空中に浮いていて

「根無しと言えば、根無しなのかな」

「まぁ、浮いているからな……」

 ごろつきをして追い払う用意はしてきたが、草を刈う用意はしてきてない。

「どうする? 断って帰るか?」

「依頼書に書いてある事項に間違いはない、なら断る理由があるものでもない」

「まぁ、見たところただの草。かき集めて袋にいれてしまえば大丈夫だろう」

「楽な仕事だな……」

「まぁ、たむろしてる人間と比べたらね……」

 ボーナスだと思って、草掃除に従事することにする。


「ナムラ、そっち行ったぞ!」

「いや無理だって、高く上がりすぎだ!」

 一時間後、俺たちは根無し草の処理に苦戦していた。

「人間の説得と草の処理、どっちが楽だったと思う?」

「さぁな……、わかんねぇ……」


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