第948話:ジュンケイ・イズナ~魔法絶対禁止都市~

「魔法使いを見た」

 さすがにルームメイトがそんなことを言い出したら誰だって妄言だと思うだろう。

「いるわけがないだろうそんなもの」

 あきれてそう返す、妄言にまともに取り合うことはない。

「いやほんとうだって! あれは魔法使いだった!」

「魔法使いなんているわけないだろう、ここは科学の都【テルヴィア】だぞ」

 そう、なんたってここはテルヴィアだ、魔法の持ち込みは禁止であって、入り口で検閲がある上に、内部でのグローバルネットへの接続にも制限がある。

 携帯端末デバイスを介すことなく魔法が使える存在は拘束具まで装着する義務があるほど徹底した空間。

 魔法使いなんていられるわけがないのだ。

「それはわかってるさ、わかってなかったらこんなに慌てちゃあいない」

 まぁ、よそには魔法使いなんてゴロゴロしてるからな、たくさんいるという意味でも、だらけているという意味でも。

「この町で魔法使いを見た、これは真実だ」

「本当にぃ? 信じられないなぁ。この町に魔法を持ち込んだ人がいるなんて」

「本当だってば!」

 まぁ、彼のこの言いようから見るに、実際に見たのだろう。

 彼が魔法としか思えないような現象を起こす人を。

 一部の魔法は科学で再現することも可能だし、新しい道具の試作品か何かの実験をしている場所に偶然遭遇してしまったとか、そういう奴だと思う。

 つまりは勘違いなんだ。



「遅くなってしまったな……」

 夜、太陽が仄かな青い光を落としているのを無いことのように人工の白い光で照らされたメインストリートを行く。

 明るいとか暗いとか関係なく、この時間になると人は減り、今日は偶然にも誰も出歩いていない。

 たまにあることだ、不思議な話ではない。

 そんな中、街灯がジジとノイズのような音を発して一つ消えた。

「?」

 さすがにこれは珍しい、この町の電気設備に異常がでるとは。

 なんて思っていたら、通りの街灯がすべて消えた。

「さすがに、おかしいな」

 自然と足が速く動く。

 もう少しでまだ明るい通りだ、というところで後ろから何かが目の前に転がり出た。

 たぶん、これは人だ。

 暗いことに慣れていなくて、逆光で、輪郭が何とかわかる程度でしか見えない。

 その誰かが携帯端末デバイスをかざして、閃光が走る、カメラのフラッシュとかではない。

 頭に過ったのは魔法という言葉。

「魔法使い……?」

 あいつに聞いた話が思い浮かぶ。

「魔法使いを見た」と。

 その誰かは、光った瞬間にどこかへ行ってしまい、通りにはいつの間にか光が戻っていた。

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