第927話:トコグシ-ジエロ~コンテンツ化~
「最近ひどく疲れるんだ」
個室酒場でそう相談してきたのは、最近やけに人気者になってしまった奴、ススケ・ソウダラ。
昔ながらの付き合いで、最近忙しそうであんまり会ってなかったんだが、突然連絡が入って、こうして会うことになった。
それで開口一番そう相談されたのだが
「そりゃあ、お前あんなに普段囲まれてたら疲れもするだろ」
「そうじゃなくて、囲まれること自体はいいんだ、なんというかだな、俺を強要されている感じが強くて、うまく言葉にできないんだが……」
「あーはいはい、わかったわかった。俺にはそういう経験が全然ないがわかった」
「いつも日陰者だったお前が人気者になった俺の気持ちがわかるのか!?」
「うるせぇ、一言余計だ。そんなこと言ってると教えないぞ」
「あ、ダメ、教えてください、この通り!」
躊躇い無く頭を下げてくる、まぁ普段のこいつからしたら考えられない姿だ。
ファンには見せられないな。
「よしよし、いいだろう。まぁ、あれだ。お前の周りにいるのはお前のファンじゃない」
「いやそんなことはないだろ」
「まぁ聞け、お前じゃなくて、ススケ・ソウダラのファンなんだよ」
「それは俺のファンなのでは?」
「お前はお前だ、お前とは違うコンテンツとしてのススケ・ソウダラのファン」
「言っている意味が……」
「つまりだな……、俺と接している今のお前は、お前個人としてのススケ・ソウダラだ」
「俺個人としての俺」
「そう。だけども、普段ファンと接しているときのお前はファンの見ているススケ・ソウダラというキャラクターだ。そりゃあ四六時中演じていたら疲れるよ、わかったか?」
「なんとなくって感じだな」
「もし、俺がファンだとしたときに、お前はそう返すか?」
「なるほど、そういうことか。わかったよありがとう」
「そう、それがお前が演じている方のススケ・ソウダラだよ。適当に人目に付かないところでは息抜きしろよ、疲れるからな」
「はー、そういうことか。無意識にやってたから気付かんかった」
「おう、相談はこんなもんだな。また近いうちに飲もうや。じゃあな」
そう言って席を立とうとした俺をススケは引き留めて
「まてまて、じゃあ日陰者だったお前がなんでその感覚分かるんだ?」
「日陰者は日陰者なりにキャラ演じてたんだよ、人気になるのもいいがコンテンツ化しすぎて自分を失わないように気をつけろよ、じゃあ会計よろしくな」
まったく、嫌なことを思い出させやがって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます