第919話:カントウ・スニカン~饒舌な無口~

「よぉ、元気か?」

 冬の終わり、そろそろ暖かくなってくるだろうという時期にさしかかって。そとを出歩いている人も多くなってきていた。

 凍ってはいないが、濡れている地面は今朝降ったばかりの雨によるもので軽いちゃぷちゃぷという音を立てるのが小気味いい。

「元気そうだな」

 この声をかけてきた彼は生前からの付き合いがあって、なんだかんだでこの世界でも付き合いがある。

 ただ、前は同じくらいの年だったのに、この世界に来たのは彼の方が数年早かったために、今では彼の方が頭2つぐらい背が高い。

「今日はどうする?」

 その分の精神的な余裕からか、こちらに来てからは彼がリードしてくれる率が高い。

 私は元から無口な方ではあるけども、彼は察してくれるから動きやすいというのもあるかな。

「うん、あっちに新しくできたお店に行ってみようか」

 私もそこは気になっていたところで、ナイスチョイスだと言わざるを得ない。

 わざわざ発言はしないんだけど。

「あはは、ありがとう。僕もあそこは気になっていたからね。ちょうどいいだろう?」

 ん、んん?

 いつも、私の考えていることが結構わかるなって思っていたんだけど、もしかしてこいつ心が読めるのか……?

 長年付き合ってきてようやく発覚したがまさか超能力者だったとは。

「いや、違うよ。君は本当に無口なんだけど、とても表情に出るからさ。それこそ実はすごい饒舌なんじゃない?ってぐらいにさ」

 そうだったのか……

 気をつけなければ……

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