第896話:ルルニア=ローテルⅪ~無趣味~

「こんにちは、おねーさん」

「今日も元気ですね、ホルト君。あまり仕事中に来ないよう言ったと思いますが? 昨日も、その前にも何度か」

 以前に転生対応をした少年、ずいぶんと夏枯れてしまって、こうやってターミナルにまで世間話をしにくる。

「いいじゃないですか、見たところ今日は暇でしょ?」

「まぁ……」

 今日は転生者も少なくて、空き時間も多くある。

 暇といえば暇なんだけど……。

「でしょ? しかもここは転生者対応をしている時間以外は特に何の制限もなく、何をしていてもいいって聞きましたよ?」

 持ち場を離れなければ、個人の裁量の範囲で、ならそういうことにはなっているけれど。

「それ、誰から聞いたんです?」

「おねーさんと仲がいい、ちょっと背の高い人」

 サリノですね……、あの不真面目はまったく。

「そういうえば、普段はおねーさん、暇なときは何をして過ごしてるんです?」

「何を……?」

 考えた瞬間、頭の中でエラーが起きたように思考が虚無になった。


「あれ?」

 気付けば家にいて、時間も随分と飛んでいる。

 いや、ホルト君もはいつの間にか帰ってしまっていたけども、その後の記憶もちゃんとある。

 転生者対応も手際よく案内できていたと思うし、ミスもなかった。

 ただ、その間の思考はずっと「何を……?」で固まっていた気がする。

 私はいつも、合間の時間に何をしていたんだっけ……?

 というか、そもそも私の趣味ってなんだっけ?

「どうしたんですか、マスター、ロボ。いつもに増して虚無のような顔をしていますよ、ロボ」

「い、いつも……?」

 いつも私は虚無みたいな表情をしているというのだろうか。

「ねぇロボ、私っていつも空いてる時間に何をしているか、わかる?」

「マスターに合間の時間はほとんどないですが、ロボ」

「ない?」

「はい、常に何か作業を探して動き回っているように見えます、ロボ」

「常に……」

 そういえば今日の虚無だった時間の中でも何かを常にしていた気がする。

 掃除したりとか、細かな雑務を処理したりとか、休憩として適度な栄養補給をしたりとか。

「もしかしてマスター、無趣味であることに気づいてしまったんですか、ロボ」

「私って無趣味なんですか?」

「はい、マスターが想定する一般的な趣味に該当する行動や感性はマスターの普段の行動からは検出できません、ロボ」

「そんな……」

 無趣味とは……

 いままで何にも問題はなかったのですけど、こういうのって自覚するときついものがありますね……

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