第891話:フリク・サケン~可視化音声~

『ふぁ~』と空中に文字が浮かんで飛んできた。

 誰かの欠伸の声だろう、眠たそうなフォントになって、見ていたら消えてしまった。

 今日もこの町はしずかで、視界も良好。

 前の喧騒だらけで10クロン先も見えないような町から越してきて本当によかった。

 あの時は完全防音の部屋にこもって一日を過ごすのが日常で、こんな風に朝の散歩を楽しむ余裕もなかった。

 もともと静かな町だったんだが、住んでいるうちにどんどん人が増えて、気づけばそんなありさまになっていた。

 いろんな事情があってずいぶんと遅くなってしまったが、もっと早く引っ越せばよかった。

 前の町は普通の住みやすさとかを重視して選んだら、あれよあれよという間に人が増えてしまったから今度は私基準の住みやすさ(現状の人口の少なさ、人の増えそうな条件が無いこと)を重視して町を選んだ。

 これできっと、住みやすい快適な暮らしができるに違いない。


 うー、起きれない……

 朝からこの町を選んだのは失敗だったかもしれないと思うようになってしまった。

 全然人の声は聞こえないし、静かで過ごしやすいとは思ってたんだけど、それにも理由があって、この町、ただ人が少ないわけじゃなくて、みんなが極端に眠くなる空気で満たされているらしい。

 眠れば起きることはできるのだけど、起きている間は常に眠くて仕方がない。

 起きて活動することに難がありすぎた。

 次は普通の人も暮らしやすくて、静かな町を探す必要がある。

 起きれたら、調べる……。

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