第863話:フローン・リンア~鍋~

 ぐつぐつと、陶製の鍋の中で具が煮込まれている。

 複数の葉野菜と、何のかはいまいちわからない肉、あとはどうやって加工したのかわからない、食物かどうかも怪しいひも状の何か、あとは何らかの魚。

 鍋ってこういうものだっけ……?

 まぁ、異文化の鍋だからな、そういうこともあるだろう。

 この異文化鍋交流会では異世界の鍋が食える。

 参加者が持ち寄りで鍋を用意して交換して食べる会、と聞いている。

 そう聞いているのだが、どうにも不安である。

 なんでか、事前に同意書も書かされたからな。

 この回で鍋を食して体調を崩しても文句を言えないというものだ。

 非常に怪しい。

 いや、まぁそれでもおいしそうだったから同意して参加したわけなんだけど、見たことあるようでない食材を知らない配合のつゆで煮込んだ鍋には興味があるから来ないわけにはいかなかった。

 冬は寒いしね。


 さてと、あらためて僕の手元に回ってきた鍋を食べる。

 つゆがしみこんだ葉野菜のしな感はうちの世界の鍋と同じで、しょっぱめのつゆとあまみのっつよい葉がいい感じだ。

 肉もうまい、これは鍋より別の食べ方で食べたい感じもあるな、あとで何の肉か聞いておくことにしよう。

 魚も旨い。

 して、問題はこれだ。

 なんだかよくわからない、半透明のひも状のプルプルしたもの。

 素材もわからないし、実際に食べていいかどうかの判断がつかない雰囲気。

 もしかして同意書はこれのためか?

 体質によっては死ぬとかそういう食材なのでは……?

 いやさすがにそんなものを鍋にすることはあるまいよと、意を決して口に放り込む。

 ……死ぬようなことは無かったが、うまい……? うまいかと言えばなんか妙な、たぶん馴染みが無いとかそういう感じで旨さがわからないとかそういう感じ。


 他にもいろいろな鍋を食べたけど、最初にたべたその何かが気になってしまって、肉の種類を聞くのを忘れてしまっていた。

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