第830話:アコン・ネン~虚無人生~

「死んだら何もないって聞いてたんだけど」

 生き物はいずれ死ぬと、その考えで何を為すのも意味がない、そう思って死んだんだけど。

「まぁ、そういう考え方もある」

「なにも残らないなら何にも得ることなく過ごしてきたんだよ」

 この世界に来た時に、僕は何も持っていなかったんだ。

「まぁ、死んだ後のことは誰もわからないからね。そういう思想に運が悪かったと思うしかない。前の世界に残せたものがある奴の方が少ねぇさ」

「それはそうなんですけど……」

 物は誰も持ち込めてはいないけど、物どころか技術も何も僕にはない。

「そんな気にはなれないですよ……」

 本当に何もない、何も持ってないまま第二の人生。

「残せた人は少ないかもしれないですけど、この世界では大体誰もが何かは持ってるじゃないですか」

「いんや、何も持たずにこの世界に生まれて、何も持てないまま死んでいくやつもいるさ

 ただ、持たざる者は目立たず埋もれる、それだけのことよ」

「そういうもんなんですかね」

 そうは思えないんだよな。

「まぁ、生き方に間違いがある物ではない。死後に世界があるといってもこの先はあるかわからん」

「じゃあ」

「この世界での生に意味があるかはわからん」

「じゃあ無意味に生きても」

「もちろん良い」

「なんとなく、この人生にも絶望できてきました……」

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