第811話:ウーズイ-ファウズ~言の森の葉~

「この森の木、葉の付き方が妙じゃないか?」

 森の木々は、歪ながらも見覚えのある形をしていて。

 ただしそれは木の葉として見覚えがあるわけでは無い、

「ああ、言の森だ」

「言の森?」

 葉の形は文字だった。

「文字なのはわかるけど、読めないんだが」

 知らない文字だとか、それ以前にどういうわけか文字として認識できるが読めないというなんだかよくわからないことになっていた。

「この辺はまだ未成熟な文字だからな、意味が宿っていない」

「意味が宿るとは……?」

「もうちょっと先に進もうか」

 そう言って、歩を進める。


「あ、この辺は読める、気がする?」

「うん、あれは肯定、これは否定、指示、始まり、終わり、まぁそういう意味をもった言葉だな。まだ音は持ってない」

 そう、言われたように見れば意味は読み取れるが当てる音が無い、そういう文字だ。

「さっきの文字とは形がずいぶん違うのね」

「そりゃあ違う字だからね」

「ああ、そっか」

「じゃあもうちょっと進もうか」


「あ、この辺はだいぶわかる、あれはバアラ良い

「あっちはグラウ悪いだね。だいぶ成熟してきた言葉だね」

「しかもずいぶんにぎやかな感じしません?」

 風の音が小さなざわめきのように聞こえる。

「言葉に音が乗り始めてるからね、この辺りはもうそろそろかな」

「そろそろ?」

「もう少し進めばわかるさ、ここに来た目的もね」


「よし、あったあった」

 言の森の奥、たどり着いた場所には一本の立派な木があった。

「うん、いい出来だ。言葉も多いしわかりやすい」

「ずいぶん立派な木ですね、これは?」

「共通語さ」

「知ってる共通語とはずいぶん違うようですが……」

「次の共通語さ、この木が枯れるころに浸透するんじゃないかな」

「言ってる意味が全然分からないのですが……、これをどうするんです?」

 なんでもこの木の葉を記録しておき、辞書にするんだそうだ。

「そういえば、これが枯れるまでにどれぐらいの時間が?」

「うーん、ざっと数百年から……、数千年ってとこかな」

「それはまた……ずいぶんと気が長い話ですね」

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