第794話:ホウソツ・イジリ~死んでなお~

 チンッと短い音を鳴らしてグラスをぶつける。

「あいつ、スズクが死んでもう10年か……」

「ああ、早かったよな。いい奴だった」

 いつも一緒に遊んでいたあいつが死んだのは10年前、それから毎年この日はこうやって集まって酒を飲んで思い出を語る日にしている。

「いつも無茶ばっかりしてたよな、だからあんなことになってしまったんだが」

「まさか酔っぱらって毒蛇の巣に飛び込んで行くなんてな……」

「ひんやりして気持ちいいからって言ってたが、まぁ死ぬよな」

 うんうん、と過去の武勇を語っていく。

「そうそう、アレ覚えてるか?」

「どれだよ、腐った豆の中で泳いでくるとか言って出てった奴か?」

「ちげーよ、いや近い時の話だな、その腐った豆で泳いで帰ってきた後の話」

 話が盛り上がってきたところで今まで会話に参加していなかったもう一人が割って入ってきた。

「そろそろ黙ってるのも限界なんだが」

「おうスズクじゃないか、なんかおかしかったか?」

「いや俺死んだみたいに語られてたけど、」

「死んだだろ?」

「ああ、間違いなく死んでる」

「いや確かに死んだけどさ、確かに死んだんだけどさぁ! お前らも死んでるし、今はここで生きてるじゃん?」

「まぁそうだな」

「でも今日無茶して死んだのは事実だろ?」

「いや確かにこの世界に来たのは10年前の今日なのは確かだけどさ? 毒蛇の巣に突っ込んだりはしてないぞ」

「そうだっけ?」

「そうだよ、毎年毎年人の死んだ日を変な設定で語る会をしやがって」

「いいだろ楽しいし」

「そうだよ、楽しいから毎年参加してるんだろ」

「まぁいいけどさ」

「じゃあ続けるけど、」

「続けなくていいからもう普通に飲もうぜ」

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