第774話:~ネームレスノーム~

 私は気付いたら土から産まれて、気付けばノームと呼ばれていた。

 聞けばそれは私のような土から産まれたものを指す言葉で、私という個を表す名は無かった。

 以前はそういう世界だったしそれでもいいと思っていたというか、私個の名なんて考えたことも無かったのだけど、この世界に来た時に

「あ、ノームの方ですか。なら個人名は無いですよね。どうします?」と言われて考え込んでしまった。


「名前、決めなきゃダメですか?」

「いえ、別に決めなくても構わないですよ。まぁ登録名がノームとなるだけですね」

「少し考えてもいいですか」

「どうぞどうぞ、変更はいつでも受け付けておりますので」

 そういうやり取りがあって、今に至る。


 それから何日も経って、まだ私は名無しのノームのままだ。

 私の名前はまだ決まってなくて、そもそも名前を自分に付けるかどうかも決まっていない。

 この世界に来て自己の個みたいなのもなんとなくはっきりしてきたけど、やっぱり自分の名前っていうものはピンとこない。

 かといって、ノームのままで名無しというのもなんとなく引っかかってしまって、落ち着かない。


 とりあえず個を識別する記号としての名前を当ててしまうか、それとも自分を表す名を思いつくまで考えるか、どうしよう。

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