第738話:ノルンⅤ~鏡に映る幽霊~

「そういえばあんたって、鏡には映るの?」

 トーカさんが仕事の合間に雑に話題を投げてきた。

「鏡ですか?」

「そうそう幽霊ってさ、鏡に映らないやつと鏡に映るやつがいるじゃん? あんたはどっちなのかなって」

 たしかに、なんとなく幽霊は鏡に映らないもののような気がする。

 ためしたことはないけども。

「あーどうですかねぇ。死んでから鏡とか見たことなかったです」

「よし、じゃあやってみようかね。鏡はトイレの方にあるから」

「トイレどこですか?」

「そういえば教えてなかったな、お前トイレいかないし」

「そうなんですよね」

「まぁ、こっちだ。ついてきな」


「お、映らないんだな」

「映りませんねぇ」

 私は鏡には映らないのか、まぁ幽霊だし。そんなもんだよね。

「鏡に映らないとなると、身だしなみとかどうしたらいいのかな」

「今更言うか? あんた身だしなみ必要ないじゃん。ていうか何年幽霊やってるんだよ」

「いやぁ、覚えてないですねぇ」

「何十年やってもかわらんだろ、どうせ幽霊は身だしなみなんて整えないんだから」

「じゃあ鏡に映る幽霊は身だしなみを整えるために鏡に映るんですかね?」

「さすがにそんなことはないだろ」

「じゃあ、なんで映るんですか」

「さぁ、そうだな……、映りたがりなんだろ」

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