第719話:ケアロエ・リージィ~板ポリタウン~

 暑……、中央からだいぶ離れてるこの街でも結構な暑さがあるな……

 ちょっと喫茶店にでも……?

 ……? なんだ、なんかおかしいぞ?

 この喫茶店、ドアノブが無い。

 いや、あるにはあるが、触れない?

 何というか、何というか、まず、そこに扉かどうかは置いておいて壁はある、壁はあるのだけど見た目通りの質感は無い。

 たぶん、まっ平な壁だ。

 窓枠も、レンガ壁も花壇も全部が同じ板に描画されている。

「ああ、君。喫茶店に行きたいのかい? 判定がある店は三つ向こうの通りの、そう、判定が無い通りも数えて三つだ、そう、手前2つ目は判定が無いから通りだと思って突っ込むと壁にぶつかるから気を付けろ、三つ向こうの通りの4件目だ、」

「はぁ……? ありがとうございます」

 老人に話しかけられたと思ったら、この老人、厚みがない。

「あの、ところでこの街はなぜその、判定?が無いところがあるのでしょうか」

「ああ、そこからだね。私も説明するのはきらいじゃないからね、話しながら案内することにしよう」

 そう言って厚みのない老人は先導するために俺の周りを回って、背を向けたわけだが、ちょっと脳が混乱した。

 どういうわけか、こんなに厚みがない見た目をしているのにもかかわらず、どの方向から見ても老人は老人に見えた。

「そもそもの話、私はこの街の生まれではないので詳しいことはわからないし、ほとんどがこの街に住んで調べたことと推測の話だ」

 こんなにこの街との親和性が高い体をしているのにこの街と関係ないのか、すごいな。

「まぁ、この街はアレだ、所謂電子ゲームの中に存在した街、というやつでな。そういう街が消滅しただけではこの世界にこういう形で出現したりはしないのだが、特定の要素が必要なのか、完全にランダムなのかはわからないがね、収録ソフトやデータを記録した媒体がすべて失われた時等にね、こうやってこの世界に再現されることがあるみたいでねぇ」

「ゲームの街」

「そうそう、この街も再現されたんだけど、容量の削減のためにか、板オブジェクトに立体に見えるテクスチャを張っているんだ。ゲームの街だからイベントがある建物以外は扉の判定もないし、通りすら作りこめなかったらしくね、あるように見えるけど実際は壁があるだけっていうね、まぁ、喫茶店はこの世界の人がスペースを使ってやっているお店だから安心してもらっていい」

 容量削減……、ねぇ?

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