第711話:イジャール・アドモンスⅢ~砂子の卵~

「いーじゃるー!」

「おうおう、どうしたバグサ」

「お、珍しく起きておるのじゃな」

「珍しくはねぇ、この時間はいつも起きているさ」

 外は暗くなり始めていて、ようやく気温も下がって出歩くのにちょうどいい時間。

「むしろお前がこの時間に来る方が珍しいだろ、なんかあったのか?」

「うむ、卵を拾ったのじゃ」

 砂の塊、こいつら砂人の転生卵か。

「お前、これをどういう基準で卵だって判断してるんだ?」

「見ればわかるじゃろ?」

「いやわからん」

 なんかこいつらしか感じ取れない何かがあるのかもな。

「んで、転生卵って詳しくは知らんけど既に中にいるんじゃないのか?」

「うむ、もうそろそろ出てくるようじゃぞ」

 砂人の幼体か、ここらでうろついている奴らはみんな子供みたいな背丈をしてるが成体ではあるらしいから、なかなか見られるものではない。


「ぴゅい?」

 出てきた、すげー小さい子供が出てくるのかと思ったが、見た感じはトカゲのようだ。

「ぴゅいぴゅい!?」

「うむ、落ち着くがよい。突然のことで慌てる気持ちはわかるが落ち着いてわらわの話を聞くのじゃ」

 そういってバグサは死んだこと、この世界のことを掻い摘んで説明して「ちょっと待っとれ」とそいつを連れて一旦部屋を出ていった。


「おまたせじゃー」

「ど、どうも」

 戻ってきたバグサは別の砂人を連れていた、砂人の中では細身でバグサよりは背が高く、スキンヘッドだ。

「ところでさっきの奴はどこやったんだ?」

 バグサはトカゲを連れてはいなかった。

「ん? こやつじゃが?」

「は?」

「あのままでは不便じゃったからな、砂を食わせに行ってきたのじゃ。しばらくすれば砂が下りてきて良い姿になる」

「背が高くて恥ずかしいです……」

「まだ尻尾も残っておるしなぁ」

 そういってバグサが指した尻のあたりを見ると確かにトカゲのような尻尾が短く残っていた。

「ちょっと待て、」

「なんじゃ?」

「ちょっとお前らの成長過程みたいなのを説明してくれ」

「なんじゃそんなことも知らんのか」とバグサは突然成長してきた奴を別の奴に任せ、説明を始めてくれるのかと思ったら突然トカゲ型になった。

「!?」

「これが生まれて最初に取る姿じゃな、生まれたばかりじゃとまだ不器用でこんな姿しか取れん。この姿のまま暮らす変わり者もおるが、まぁ大体は二足で立つようになるな」

 そのトカゲ型のままバグサは語り続ける。

「そして成長して器用になって砂が増えてくるとこう、二足で立てるようになるのじゃ」

 体のバランスを変え、立ち上がる。普段のバグサよりも頭二つ分ぐらい背が高く比較的細く見える。

 尻尾も残ったままだ。

「それで立ち上がってしばらくするとこう、砂が下りてくるのでこうじゃ」と普段の姿になる。

「我らはこういう成長の仕方をするのじゃぞ」

「まさか自分で再現するとは思わなかったな」

「わらわは器用じゃからの、伊達に長生きしたわけではないぞ」

「長生き……?」

「うむ、ざっと8000年ぐらい生きてからこの世界に来たのぉ」

 この世界に来てからは何年ぐらいだ?とはちょっと聞けなかった。

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