第701話:スイズ〜公務員ヴィラン〜

「うわっはっは!無力なりヒーロー!我が破壊活動、指を咥えて眺めているが良い!」

 異形の腕を振り回し、道路を、壁を砕いて吼える。

「くっ、これ以上の破壊活動は許さぬ!」

 対峙するヒーローは満身創痍、地面に倒れ付すも、目の光は強くこちらを睨み付けている。

 人質もいるのだ、負けることは無い。

「ぐぅ……、負けない……俺は負けんぞ!」

 満身創痍のはずのヒーローは最後の力を振り絞るとばかりに立ち上がり、こちらに向かって必殺技を放った。

「おのれ……、覚えていろ!」

 これはまずいと捨て台詞、俺は人質を解放して逃げるしかなかった。


「お疲れさまでしたー」

「はいお疲れ!」

 役場の裏廊下、ヒーローとお互いを労り合う。

 つまるところ、所謂マッチポンプという奴。

「いやぁ、いい破壊っぷりだったよ。次もよろしくね」

 俺やヒーロー以外にも、土木工事者とか、役人とか、この事業に関わっているメンバーがいる。

「でも、ヴィラン役なんてやってもらって申し訳ないね」

「いや、俺は見た目がこんな感じだし適役ですよ。前も同じようなことをしてましたし、それで感謝されるなんて思ってませんでした」


 以前は世界征服を目論む組織の一戦闘員、その世界のヒーローとの戦いで命を落とした。


「いやぁ、君のおかげで僕らも仕事ができるんだ、ありがたいね」

「うん、老朽化した道路を壊して貰って大きな事故が起こる前に修理を発注できてすごいいいよ。ヒーローショー仕立てにすることで観光客も増えたしね」

「ボクも人気者になれてとても楽しい」

 つまり、みんな幸せなので悪役扱いされることなんてたいした問題じゃないのだ。

 元々そういうために作られた生なのだし。

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