第630話:オーカン・イーム~そろそろ夏~

 前世の知り合いと近所でばったり出会ったので、家に呼んでみた。

「だんだん暑くなってきたね」

 話すこともないと、天気の話題を振ってみる。

「冷房でもつけますか」

 私の部屋で、勝手にエアコンのリモコンを探し始める。

 気は利いている子なのだが、少しずれているような気がしてならない。

「まだそこまでじゃないかな」

 部屋を漁られても困るので、やんわりと制止する。

「夏といえば新年ですけど」

 今度は向こうから話題を振ってきた、そういえばこの世界での新年は一般的に夏季の1日を言うんだったっけ。

「それにはまだ遠いんじゃないかな?」

 まだ春季が終わりそうなところであとまるっと一つ季が間にある。

「新年はグルヴェートから人がほとんどいなくなりますから、観光に行くならいい機会なんじゃないですか?」

 夏といえば新年、と話題を切り出してきたのに実質この話題は夏だからという話題だ。

 びっくりした、話題が変わるのかと思ったら何にも変わってなかった。

「あそこの面白さは人の混沌具合なのに、人がいない時期に行ってどうするのよ」

 グルヴェートという街はどこの世界にも拠らない、いろいろな世界の人がいて、世界の中心であり混沌であるという街だ。

 なのに、誰もいないグルヴェートに旅行に行く理由がない。

「いやいや、そこは新しい発見があるかも」

 そういう探求心は一人で満たしてきてほしい。

「あっても死ぬほどくそ暑いあの時期に行きたくないわ」

 人がいなくなる理由のほとんどが暑さによるものだというのに。

「世界で一番暑いらしいですからね」

 太陽が真上にある街だから暑くなると聞いたことがあるけども、本当だろうか。

「他にももっと暑いとこありそうだけど、砂の方とか」

 そういえばとても暑い砂漠の街の話を聞いたことがある。

「確かに、人が住んでない地域とかはもっと暑い場所ありそうですよね」

 人が住めない環境ならいくらでも暑い場所はありそうな気がする。

「火の海とか火の山とかそういうところとか」

 常に燃えているぐらいだし、相当暑いんだろう。

「知ってます? 一説では天然の核融合炉になっている一帯があるらしいですよ」

 そこまでいくと地表に太陽があるようなものじゃないかな?

「暑いとかそういう次元じゃなさそだね……」

 誰も近づけないだろう。

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