第625話:アラム・ラヴァム~深淵にて~

 ここはかつては死の穴と呼ばれた場所。

 文字通り死そのものが漏れ出している穴で、今では廃棄孔だ。

 つまりはゴミ捨て場、底無く果て無く全てを死に還す特性を持つこの穴はゴミ捨て場として最良であるという理由だ。

 通常の世界であれば、無限に資源を消費する行為だが、他の世界からあらゆるものの転生によって無限に資源を確保することが可能なこの世界では特段気にするようなことでもないらしい。


 私はその死の穴の縁に住む、アラム・ラヴァムという者。

 常に死が身を蝕む可能性があるため、ここに住んでいる者は私以外にいない。

 私はそうだな、所謂物好きな研究者というやつだ。

 ここの穴から漏れ出してくる、現象としての死をもたらす、黒い靄状の物質化された死、これがただの毒物なのか、物質化された概念なのか、はたまた別の現象なのか。

 そういう興味があるだけでこの場所に庵を構えて日々をすごしている。


「さて、これはどうだろうか」

 死ななさそうな物、鉱物や奇妙な動物を選んで編んだ紐を穴に放り込む。

 ある程度降ろして、夜になったら引き上げる。

「ふぅ……」

 引き上げた紐はずいぶんと短くなってしまった、死んで消えたんだろう。

 とにかく最初は死なない何かを見つけなければいけないのだろうと、いろいろ試しているのだが、半年続けて未だ成果はゼロ、367種の縄が死んで消えた。

 まぁ、この世界に不死はないという話なので、ありとあらゆる全ての物質を試したところで一つとして見つからない可能性もある。

 まぁ、それならそれでもいい。

 それならば、この穴から漏れ出してくるのは死そのものであると言えるのだろうから。

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