第620話:ホオン=アルタイラ~風船オブジェクト~

 目の前に何か変な、顔の書いた風船みたいなのが浮いている。

「なんだ……?」

『ハローハロー、私が認識できていますか?』

 喋った、仮称顔風船は喋るのだ。

『返答無し、視覚による認識には成功しているものの、音声は認識できない模様』

「いや、聞こえてるよ」

『報告訂正、音声の認識を確認。コンタクトを続行します』

 しまった、知らんぷりしておけばよかった。

『ハローハロー、確認します。私のことが認識できていますか?』

 そこからやり直すのか……

「ああ、見えてるし聞こえてるよ」

『確認オーケー、次のステップへ移行します』

「いやまて、まずお前は何なんだ」

『お好きに認識していただいて構いません、逆に聞かせてもらいましょう、私は何に見えますか?』

「何って、顔のついた風船だな」

『ありがとうございます、では顔風船とでもお呼び下さい』

「いや呼び方とかどうでもよくてだな。さっきも報告とか言ってたし、俺に話しかける目的はなんだ」

『……いいでしょう』

「ほら今も!今の間!それ絶対どっかに許可求めたよね!」

『イエス、私はまだ自己判断のようなことができませんので』

「で、顔風船は何者なんだ?」

『私はですね、不定生命体なんです』

 聞き覚えのない単語だ。

「その、不定、生命体?ってのはつまり、どういうものなんだ?」

『わかりません』

「はぁ? 自分のことだろう?」

『私の存在自体が不定なため、この私は私について知らない私なのです』

 わからん。

『私は現在通信能力を付与されて、私への認識を調査して報告しているのです』

「そ、そうか。がんばれよ」

『はい、頑張ります』

 そう言って顔風船、もとい不定生命体はどこかへと風船のようにふよふよ飛んで行ってしまった。

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