第538話:クローメンⅡ~大金と責任~

「うああああ」

 家から出られない。

 物理的にふさがれているわけではなく精神的に、それも誰かから押し付けらているプレッシャーの類ではなく、自分で自分にかけている精神的重圧。

 先日、唐突に大金をどこからともなく匿名で押し付けられてから、常に誰かに狙われている気がして、どうしようもなくなっているのだ。

 そもそも、いったい誰がどんな目的で俺に1000万パソも送ってきたというのだ。

 いや、目的を考えるのはよそう。

 今まで何にもアクションがなかったんだ。

 これからもない可能性のほうが高い。

 それよりも、外に出て挙動不審になって1000万も持っていることを嗅ぎ付けられるほうがまずい。

 もしどこからか漏れて、「1000万パソを送り付けたものですが」とか言われでもしたらとても厄介だ。

 匿名であった以上その真偽を確かめることは不可能だし、もしやべー組織(妄想)に目をつけられたらどうなるかもわからない。

 やべー組織はそれぐらいやべーのだ。

 いやそんなことはどうでもよくてだ。

 こんな大金を手に入れるまでは、よく無責任に「突然5000兆パソ振り込まれねーかなぁ」とかつぶやいてたもんだが、本当に振り込まれるとその重みで死にそうになることが分かった。

 もうどうにか処分したい、できれば自分で使う以外の方法で。

 だれか、だれか引き取ってもらえないだろうか。

 ……あ、いいことを思いついた。


 思いついたことが名案なのかを思考すると実行できなくなりそうだったので、手早く適当なアドレスを指定して1000万パソを送金した。

 もちろん匿名で。




 あれから数日が経ったが、1000万パソが突然送金されて豪遊している人の話は聞いていない。

 きっと、俺に送ってきた人も似たような境遇だったのかもしれない。

 どこかの誰かには、大金という責任を押し付けてしまってとても済まないとは思っているが、自分の自由のためだと割り切ることにする。

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