第528話:アイン=カリンⅡ~殺さない理由の話~
「逆に聞くけどさ、君はなんで人を殺さないの?」
「え?」
唐突に彼女は僕へそう聞いてきた。
始めて出会った日から、彼女とは頻繁にであうようになった。
それは運命だとかそういうものではなく、ただ単純に近所に住んでいてお互いがお互いのことを認識したことで今まで意識してなかった相手を意識できるようになったとかそういうことでしかない。
彼女の質問について考える。
殺さない理由。
「君も一生を過ごしたのなら殺したくなるほど憎い相手とかいたでしょう?もしかしたら今もいたりとか?」
そう接がれて、脳裏にはいくつかの顔が思い浮かぶ。
生前、恨みを持っていた相手は結構いた。
ことあるごとに僕に暴力を振るってきたあいつ。理不尽に怒鳴りつけてきたあいつ。昔の恋人との破局の原因を作ったあいつ。
「殺してないんでしょ?」
そうだ僕は彼らを殺していない。
「殺さなかった理由は?」
「社会的に禁止されていたから」
「そうだよね、殺人は禁止されていたよね。私の世界でもそうだったし、大体の世界でそうだったんじゃないかな」
「そうだ、死を望まない人を殺すというのは悪いことだった」
「そう、でもこの世界では禁止されていない、殺す前だった捕まっちゃうかもしれないけど、殺したこと自体を咎めるルールは無い」
「でも、殺すことは悪いことだよ」
「そもそもなぜ殺すことを禁じるルールが定められているか考えたことはある?」
「…………」
そんなことを考えたことはない。
殺すこと、他人を害することは悪いことだと小さいころからそう教えられてきた。
「人を殺すと生産性を支える人が減ってしまうから人を殺すことは禁じられてるんだって。きっと、戦争ではヒトを殺すでしょう?あれは相手が自国の生産性を脅かすヒトだから殺しても咎められない。そういうことなの」
「…………」
「私が人を殺せる理由は人を殺す必要があって、それが禁じられていないから。禁じられていたとしても咎を逃れるようにうまくやる。そういうことなんだけど、君が人を殺さない理由は?」
「そうだな、僕はたぶんうまくやる自信がなかっただけなのかもしれない」
もしくは、罪と殺意を秤にかけたか。
「でも、考え方が少し変わっても今は殺したい人はいないし、元より君の行いに興味があるだけで咎めるつもりはない、かな」
この話で自分の中に時たま湧く【殺意】という物が少しだけ、怖くなくなった。
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