第524話:パーカ・マケヌム~穴蔵の町~

 穴の中を歩いている、たぶんとても大きな穴だ。

 たぶんとなってしまうのは、片側の壁しか見えないから。

 反対側はどうなっているかわからない。

 明りは持っているが、この穴に住む闇は食欲旺盛ですぐに喰われてしまって全然照らせない。

 今手をつきながら歩いているこの壁を見失ったらどこに向かえばいいのかも、どこへ戻ればいいのかもわからなくなるだろう。

 こんな穴蔵に町なんて本当にあるのだろうか。


 あった、これ町か……?

 なんとか照らせる壁に人工っぽい穴が開いている。

 たぶんこれ、住居かなんかか?

 人は……見当たらない。そもそも何にも見えない。

「誰かいないか!?」いないか!ないか!いか!か!……

 音が反響する。

「大きな声を出すんじゃない……」

 闇の中から声がする。

「よく見えないだろう、何の用だ」

 こんな闇の中でよく見えないも何もないだろう。

 俺からは何にも見えないが、なんとなくそこにいることがわかる程度の距離まで近づいてきた。

「この町に住んでいるカルバ・マモンという者に届け物があって来た」

「届け物……?ああ、配達人か。いつもの奴はどうした?貴様は闇の中を見通す術を持っていないようだが」

「あいつはちょっと急病でな、ていうかなんでこの町はトランスポーターがないんだよ」

「あれは強い光が出るからな、我らは光に弱い」

「ああ、そんでこんな穴に住んでるわけか」

「ここは光を喰らう闇が多くてとても住みやすいのでな、さて届け物とやらを預かろう」

「カルバ・マモンを呼んでくれると助かるんだが……」

「それは私だ」

「ああ、そうかい。……あー、あと一つ頼みがあるんだが」

「なんだね」

「帰りの道がわからん」

 流石にこんなところ壁沿いに歩いても無理がある。

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