第510話:トール・ピア〜落下するように歩こう〜

 道を歩いていたら目の前でふらつく女性がいた。

 ふらついている……?

 ふらついている割りには物にぶつからないし、転びそうに見えるが転ばない。

 なんだろう、そういう歩き方なのだろうか。

 暇だし、少し観察してみることにしよう。


 彼女の歩き方は普通、一般的にあの形状の体でする、足を前に出して体の向きを変えずにその足へと体重を移動し、反対側の足を前に出して同じ事を繰り返す歩き方ではない。

 言うなれば、彼女は落下しているように歩いている。

 前に足を出すのは同じだが、彼女はそのままその足を軸に回転しながら、背中から落下するように体重を移動する。

 その際に重心が移動軸に沿わず、振られるようにして移動するからふらついているように見えるのだろう。

 あんな歩き方初めて見た。


 ひとしきり観察したので尾行をやめ、自分でもあの歩き方を試してみることにした。


 足を前に出して、???

 どうなってるんだ、ここからどうやって回転しながら前に進むんだこれ。

 考えながら足を動かしてみるがうまくいかない。

 こうかこうかと試行錯誤してる間に何度転んだかわからなくなるぐらい転んで、そもそも彼女はどう歩いていたのかが全くわからなくなった。


 しばらく練習して少しだけうまく行ってわかった。

 彼女は空を見ながら歩いていたんだ。

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