第444話:キッカース・レッガス~友達代行いたします~
「やぁやぁ、待ったぁ?」
「遅い!よ?」
「あははは、何?緊張してる?大丈夫大丈夫、今日僕は《君の友達だよ》」
僕はキッカース、友達代行という仕事をしている。
内容としては依頼を受けて1日友達のようにふるまう、それだけだ。
どういう友達かは依頼の段階で指定でき、資料を送ってもらえればそれに倣う。
気まぐれに始めてみた仕事だけど、結構需要があって驚いている。
まぁ、多少役割を演じるが実際の客は友達がいなくて多少友達としての設定に粗があっても気にしないし、実際ゲーセンとか行って一緒に遊ぶとかそんぐらいしかしないんだが。
「今日は楽しかったかい?そりゃあ良かった。じゃあ、またのご利用お待ちしております」
ああ、今日もこの定型句で別れた。
たまには……、いや、いいか。
「遅いよ」
「ごめんごめん、髪のセットに時間かかっちゃってさぁ」
今日の客は待ち合わせに遅れて来た。だけど僕は怒らない、そういう設定だからだ。
『多少ずぼらなところがある俺に対してちょっと憤っている様子を見せるが、内心は特に怒らず許してくれる友人』というのが今回の設定だ。
ちょっと意味が解らないが、依頼された以上演じる必要がある。
ちなみに彼の髪はセットしてきたとは思えないようなはね方をしている。
「お、あんたゲーム強いな」
「まぁ、慣れてるからね」
いつものゲーセンで対戦ゲームをやって遊ぶ、実際はもっと強いのだけど、ぼっこぼこにしてしまうと客の不評を買うから、適度に手加減する。
まぁ、彼に対しては憤りの様子を見せるということで勝てそうで勝てないを演出している。
いつもよりも軽くだが力を入れて遊べて少し楽しい。
「ほんとはもっと強いんだろ?」
「……さぁ、どうだろうね」
「知ってんだぜ。あんた、一人でもこれ遊んでるだろ、俺も一人で来てやってんだけど、よくあんたを見かけるんだ」
「……」
「おっと、やっぱり強いな」
うっかりノーミスで勝ってしまった。
「あ、ごめん……」
「なんで勝って謝るんだよ」
「友達としてやりすぎたかなって思ったんだけど」
「何だそんなことか、いいさ本気のあんたと戦えて楽しかったぜ」
「それならいいんだけど」
「さぁて、今日は楽しかったなぁ!」
あの後、ゲーセンから場所を移して遊んでいたのだが、ちょくちょく彼の言動に対する憤りを感じた。
しかし、不思議と悪い気分にはならなかった。
「じゃあ、また遊ぼうぜ」
彼が言い、去ろうとする。
いつも僕が言うことと殆ど内容は変わらないのに、違う意味を持っているように聞こえた。
「待って、また遊ぶなら、連絡先とか交換しておいた方がいいと思うんだ」
「俺あんたの連絡先は記録してるぜ?」
「いや、仕事用じゃなくて、個人用の」
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