第443話:ミッカース・アリダ~アホの毛~
髪の毛がおかしい。
一房だけピロンと立っている。
寝ぐせにしてはどれだけいなしても直らない。
諦めて外出することにする。今日の待ち合わせ相手は遅刻にうるさいんだ。
「なんだその髪は」
「なんというか、寝ぐせがどうしても直らなくて」
「ふむ、寝ぐせか。本当に寝ぐせか?私はその髪について知っていることがある」
「なんですか?」
「それは、アホ毛だ」
「アホ毛?」
「うむ、アホ毛。アホの頭に生える、謎の毛髪現象だと聞いたことがある」
「私がアホだと」
「アホじゃないとでも思っていたのか?うーむ、アホは己のアホに無自覚、なるほど、なんとなく深いような気もする。アホは未知数だからな」
「アホは未知数って、もうちょっと私の精神ダメージとかを慮ってはくれませんか」
「アホが慮るなどという難しい単語を使うな、よりアホに見えるぞ」
「だからアホじゃないんですって」
「そのアホ毛がその証拠だ」
「本当にこれ、アホの毛なんですか?」
「私はそう聞いたことがある」
「他の可能性を模索する気は?」
「他の可能性か、いいだろう今日の予定は全てキャンセルその仮称アホ毛の正体を模索してみよう。では例えば、なんだ?」
「え?」
「私はアホの毛という可能性を提示した。では、君は何だと考える?」
「え、あー、えーと。例えば、寄生型の宇宙人、とか?」
「なんだそれは、私の言うアホの毛よりもよっぽどアホらしい案だぞ?」
「そうですかね?」
「よし、ならば君はそれを寄生型の宇宙人、つまり寄生生物だと考えるわけだ。一旦その案を採用するとしよう」
「え、採用するんですか?」
「うむ、仮定する。ならば、実証の段階なわけだが、寄生生物というならば一刻も早く引っこ抜く必要があるだろう、今すぐ引っこ抜こう」
「え、」
先輩は私の頭髪、仮称アホ毛を掴むと思いっきり上方向に力をかけた。
「あいたたたたたたたた!!!」
普通に髪の毛を引っ張られる痛みだ、痛い、抜ける。
「ふむ、引っ張られると正常に痛覚はある。寄生生物の線はひとまず薄まったな。これだけ力をかけても抜けないとなると、外科手術が必要になるレベルか、アホの毛かだな。アホの毛はなぜか抜けない、切除されても何らかの異変を巻き起こすか、直後に再生すると聞いたことがある」
「それは毛なんですか?」
「さぁね?他にもいろいろ気になることができた、試してみようかな。今日はこの後丸々空いているだろう?」
「いやぁ、この後は用事が……」
「あるわけないだろう、元々私と約束があったんだから。それとも何か、私と予定があるのに他の予定を入れてしまう、予定管理もできないアホだと?いや、アホか」
これは、いかん。ひたすらいじくりまわされる予感しかしない。
遅刻はしなかったけど、こんなことなら遅刻してもこの毛をどうにかしてくるべきだった。
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