第399話:コロリア・リャン〜願いの器〜

「お、この器いいね」

 中古小物屋に食器を買いに来た私は、いい感じの器を見つけた。

「お嬢ちゃんお目が高いね、そいつは願いの器と言ってね、願いが叶うと言われているんだ」

「願いが?」

「そう、願いが叶う。えーっと、やり方を書いたメモが確かこの辺に」

 小物屋さんはそう言ってカウンターの中の棚をごそごそと探り始めた。

「おお、あったあった。器と一緒に置いておくと試されてしまうからね、隠しておかなければいけないんだ」

「本当に願いが叶うんですか?」

「さぁ、どうだろうね。私は特に叶えたい願いがなかったから試していないし、一度で壊れてしまうらしいから、試すわけにもいかなくてね。まぁ眉唾物という奴だ、安くしとくよ」

 どうしようか……



 買ってしまった。

 本当に安くしてもらったから、買ってしまったのだけど、困ったことに私には特に願い事がない。

 いや、無いわけではないがこんな叶うのかも分からない器にかける願いはない。

 願いを叶える手順書を読んでみたが、こんな簡単な方法でどんな願いが叶うというのだろうか。

 願い事を言いながら水を貯めて、割る。

 それだけの方法で願いが叶うという。

 器に願いを叶える魔法がかけられているということなのだろうけど、割らなきゃいけないのかぁ。

 そこまで考えて小物屋に行ってこの器を手に取った本来の目的を思い出した。

 願いを叶えるのは叶えたくなったときにして、しばらくは普通に器として使うことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る