第373話:ドリア・シャープ~働く怠け者~
困った、無駄に時間をかけて口頭で報告していたら面倒な仕事を任されてしまった。
通信室へのお使い程度、楽な仕事だがきっと面倒事が連鎖的に増える。何となくこういうときはそうなりやすい。
しかし面倒だが仕事は仕事、さっさと終わらせて面倒事を振られる前に適当に身を隠してサボろう。
「やぁやぁ、通信士諸君、元気かい?」
開けた通信室の扉を叩きながら呼び掛ける。
返事はピリピリとした空気、あとは苛立ちを持った視線。
きっと彼らの内心は、かの上司に対する不満とそれを間接的に運んでくる俺への余波的な怒り。
「さて、上司様から指示が来たぞ。上空の未確認浮遊物体からの通信の解析、及び警告文の送信だそうだ。警告文の内容は報告する必要は無し、出来次第送信せよとのことだ」
ため息が聞こえる。仕方ない、俺だってため息を吐きたくなるような指令だ。
「いい結果を出せるといいな、がんばってくれよ」
それ以上この部屋に留まるのも彼らの不満を大きくするだけだろうし、さっさと逃げることにする。
「おや、ドリア殿。暇そうですな」
物陰でサボっていたら見つかった。
「ちょうど手が空いているものを探してましてな、少し仕事を頼みます」
「了解」
あの無能指揮官ではない、この基地で最も有能で人徳もある副指揮官だ。
了解以外の返事が出来るはずもない。
彼は基本無茶な指示はしないものだしな。
怠け者には例外、そう高い高い梯子を登りながら思い出した。
もらった命令はこうだ、梯子で上って直接確認してこい、反撃されないようだから恐らく敵意はないのだろう、安全だ、とのことだ。
だめだ、疲れた。
一度梯子に座って休む。
下を見れば結構な距離上ってきたことがわかる。
上を見てもまだ結構距離がある。
ひとつ、地上まで聞こえろと大きなため息を吐いてまた上りだした。
「やっと、ついた」
疲れた、上り始めたときはまだ昼前だったのに今は朝だ。
通信は解析できただろうか、警告文なんて挑発的なものはまだ送られていないといいのだが。たぶん送られているだろうが、伝わってないといいなぁ。
さて、中の人にどうやってコンタクトをとればいいんだ?
近くで見れば間違いなく人工物に見えるそれは窓もあればハッチもある。
そうなれば当然人も乗っているだろう。
とりあえず、ハッチでもノックしてみるか。
「はー、あんたも大変だねぇ」
ノックしたらハッチはすぐに開いた。
中には男が一人だけ、言葉は通じなかったがジェスチャーで乗れと示されたのでとりあえず乗って、男が変な機械を持ち出したらすぐに言葉は通じるようになった。
男が言うには翻訳機と言うものらしい。
「一人で、空の向こうから、1年もかけて」
「ああ、色々と大変だった」
空の向こうに人が住んでいると言うのも驚きだが、一人で飛んでくるなんて、なんて奴だ。
「いやぁ、人と話すなんて久しぶりだから言葉が出てきにくいな、少し聞きたいこともあるってのに」
「十分話せてると思うぜ?翻訳機ってのを通しながらだからわかんねえけどな。時間もたっぷりあるから話してる途中で慣れるだろ」
ここは案外快適だし、梯子を上ってきた疲れが完全に癒えるまでここでサボり、もとい話をしていこう。
「ありがとうね、ああ、そうだ、少し聞きたいことがあるんだけど」
「ああいいぜ、なんだい?」
応えてから気づいた、これ、砲撃とか警告のこと聞かれるんじゃね?
なんて答えればいいんだ。
「実はさ、ここから動けなくなっちゃったんだよね。落ちていくだけで地上降りられると思ったんだけど」
違った、普通に困ってるだけだった。
「落ちるって、なんだ?」
ただ、いっている意味が少しわからなかった。
「え、こうやって手を離した物が地面に向かっていくことだけど」
そう言って、地面に転がっている独楽を適当に拾い上げて手を離す。
それは手を離された場所にとまった。
「あれ?」と意外そうな声を出すが、何をそんなに驚いているんだろうか。
手を離したものがその場にとどまるのは当たり前のことだろうに。
彼は少し考えて、「もしかしてこっちには落ちるって概念が物理的に存在しないのかな?」と意味のわからないことを言った。
そしてそのまま彼はしばらく考えて、この船をなんとかして地上の安全な場所に移動させた。
その間、20発程砲撃を受けたような光が見えたが、どうにも揺れもなく、攻撃をされたとは気づかないだろうなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます