第361話:ベルク・スチル~誰かの為に、それは自分の為に~
誰かのために、なにかしたい。
そう思い始めたのはいつ頃からだっただろうか。
あるいは、最初からだったのだろうか。
生まれたときの記憶は無いから、わからない。
しかし、気づいたときから、僕は誰かの為にしか動けなくなっていた。
自分のことは二の次三の次、全ての次である。
むしろ、全ての人を優先して自分の番が回ってきても、それを放棄するような男である。
人は、僕のことを聖人と呼んだが、僕はそんな呼ばれかたはされたくなかった。
人のためにしか動けない僕は、人のためにしか動けない理由があり、それは、明かされれば誰もが、僕を人間のクズと表現するに足りるものだったか
らだ。
だけど、僕は自分がそう呼ばれるのが嫌だからと言うことはなかった、それは自分のための発言に他ならないからだ。
僕は、後ろめたさと苦しみを受けながら、聖人と呼ばれることに何も言わぬことで肯定した。
そうして生きた僕は、僕は全ての人に惜しまれながら死んだ。
第二の生、死後たどり着いたこの世界で、僕は僕のために生きている。
既にあの世界の誰にも手を差し伸べることはできず、この世界に来ている人は既に手遅れだ。
そして、僕も手遅れであり、人の為に生きる理由はもう失われた。
僕は、全ての人を救いたかったわけでも、全ての人に愛されたかったわけでもない。
ただ、自分の行動に伴う責任というものを他人に転嫁したくて、人の為にと行動をしていただけなのだから。
この世界では、自分の行動で自分に向く責任なんてものは無い。
お金を使い果たしたからと言って、飢えることはないし、他人を害したところで拘束されることもない。
自分の好きなように生きて、思う存分自分の為に行動しても、誰も僕を咎めない。
ああ、死後こそは自分の為に生きよう。
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