第337話:ロウリー・ロンル~孤独な穴~

 ザックザックと穴を掘る。

 下へ向かって穴を掘る。

 これはある一つの目的のため、記録への挑戦。

 すなわち、生身最下深度到達者。

 単純に、掘削道具を用いることなく生身での掘削、それによっての最も深く潜った者への称号。

 俺の種族は元から地面の下で生活している種族だったし、手も土を掘り岩を砕くのに適した形をしている。

 道具を使わないと地面も掘れないような奴らには悪いが、この記録は俺のためにあるようなものだ。

 現に今この記録を保持している奴は俺と同じ種族の奴だ。

 そして、俺は今日その記録を更新する。

 念入りに下調べして、この場所の岩盤の深度がほかのどの場所よりも不覚に位置していること、天候の影響を受けないようにするため(地下だが雨で穴が水没すると最悪死ぬ、穴の入り口を室内に作ったり屋根のある場所に作ったりすると記録集計のルールに違反してしまう)穴の構造を考えたり、この世界まで加護が届くのかは定かではない故郷の神に祈ったりと準備は十分。

 もう少しで記録に届く。

 今のところ順調、今日の食事も先ほど取った、帰りの分も十分足りる、不安要素無しだ。

 ザックザックと、無心にとは言い難い、期待に満ちた心境で穴を掘る。

 そして、掘り続けてようやく、恐らく8度目の朝が来た頃指先が岩盤に当たった。

 遂に、到達。

「よっし!」と声が出た。

 一人孤独に掘っていたのでなければ、仲間と感動を分かち合う、それほどまでに大きな感動。

 生身最下深度到達、間違いない。

 携帯端末デバイスを取り出し(ルール上使用が許可されている)現在深度を示す深度計を表示し、画面を撮影する。

 そうだ、携帯端末デバイスを取り出したついでだ、SNSにも今の画像をアップしておこう。

 SNSアプリを起動して、笑う。

 ここは地下深く、文明の外であり如何にこのなんでもある世界だといっても電波が通じなかった。

 一瞬、誰かとこの悦びを共有できると思った喜びが無かったことになってしまった自分の滑稽さに笑うと同時に、記録とは関係なくもっと深く潜りたい気持ちになった。

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