第332話:ゲムナーレイ~似てるが違うような~

 あれは、なんだか知っているような気がする。

 暇潰しにやってきたショッピングモールで見かけたそれは、生前故郷で人気だったゆるキャラ、【てくりこん】だった。

 知っているも何も、私がデザインした奴だ。

 知らないわけがない。

 しかし、なんだか違うような気もする。

 近づいてみる、まだ声はかけない。

 てくりこん(?)の周囲には子供が結構いる。

 この世界でも私のデザインしたてくりこんは大人気のようだ。

 少しだけ誇らしいが、近づいてみてもやはり違うような気がする。

 というか、なぜこんなところにてくりこんがいるんだ。

 考えながら見ていたら、私の睨むような視線にてくこりん(?)も気付いたようでビクッとしたあと動かなくなった。

「てくこりん動かなくなったぞ……」「熱中症か?」と周りの子供が口々に言う。こいつら中身子供じゃないな。

 そんなことより、やはりこいつはてくこりんらしい。

 要所要所は押さえているが、やはり細かいところの装飾が違う。

 てくこりんが動かなくなったからか、子供達(?)が徐々に離れてその場には私とてくこりんだけになった。

「少し、聞きたいんだが」

「な、なんでしょう!?」

 こいつ、喋りやがった。

 てくこりんは喋らないんだぞ。

「そのきぐるみ、自作か?」

「あ、はい。自作です」

 自作か、つーことは死んで記憶を頼りにこの再現度ってことだな?

「ほー、ふーん、なるほど」

 さっきよりも詳細に見ていく。

「再現度89パーセントってところだな」

「え、あ、ありがとうございます」

「ついてこい、100パーセント本物のてくこりんにしてやる」

「え!?て、あなた、何者なんですか?」

「通りすがりのてくこりんマニアだよ」

 こいつのことが気に入った、この世界での公式てくこりんにしてやる。

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