第333話:橘慶太~青い空にクジラは吼える~
突然空がかげった。
何事かと見上げると、空には大きなクジラが飛んでいた。
クジラ、そういえばファンタジーで空を飛ぶ巨大生物ランキング1位はドラゴンだが、2位はなぜかクジラだ。
飛行船を連想させるフォルムをしているからだろうか。
「あれが今、この世界の空を泳いでいるってことは、空を泳ぐクジラがいる世界があるってことだよな」
地球にもクジラはいたが、地球のクジラは空を飛ばない。
「君がいた世界の空にはクジラは泳いでいたかい?」
別の世界で魔王と戦ってからこの世界に来た俺に聞く。
「空を泳ぐクジラはいなかったけど、空を泳ぐ巨大生物ならいたな」
「へぇ、それはどんなだった?」
「見た目は、そうだな地球の生き物に例えるならエイだな。大きさは近くで見たことはないからわからないけど、すげぇでかい。東京ドーム何個分とかで表すような大きさだと思う。体表面の毛が風の魔法を宿していて、空気中の魔力を浮力に変換して飛んでるんだけど、そいつの体毛を集めて空を飛べる服を作っている民族とかがいた」
「戦ったりはしなかったのか?」
「戦ったことはないな、益獣だったし、古代には信仰の対象にもなってたらしいぐらいだった。戦う理由が一切ないし、戦う手段も無かったよ」
飛行船でも届かない高さを悠々と泳いでいるだけで害は無く、良質な雨を降らせる存在でもあったらしい。
そういえば、空を泳ぐクジラもファンタジーではだいたいが神獣として扱われているな。
空を泳いで雨を呼ぶ神、そんなイメージだ。
――――!
そんな話を自分としていると空気が揺れた。
音というにはあまりにも強い、空気を揺らす力の波そのものが空から落ちてきた。
「なんだ!?」
空を見上げても、クジラが一匹泳いでいるだけ。
今のはクジラの吼える声だったのだろうか。
なんとなく、もうしばらくしたら雨が降りそうな気がした。
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