第322話:カベ=バニア~文化保存協会~

 文化保存協会というものがある。

 その名の通り文化を保存しておくのを目的とした組織で、色々な世界のありとあらゆる文化が申請される限り、その形を保って後世に残すということを目的としている。

 ボクはその協会で働いている1人の協会員だ。


 朝、まずは当番が窓口に座り、新たな文化が持ち込まれるのを待つ。

 そして新しい文化の持ち込み申請が入ると受けた窓口当番が担当になり、例外はあるが以降の仕事は全部担当することになる。

 今日はボクの当番で、1つの文化が持ち込まれた。

 どんな文化が持ち込まれるかは運によるが、今日のはなかなかに運が無いと言わざるを得ない。

 申請者の前では言わないけど。

 持ち込まれた文化は「食人文化」。

 文字通り人を食べる文化だ。

 申請者たち、彼らの元いた世界では文化としての食人が存在していた。

 この文化の質の悪いところは、これを保存していくには当然、被食人、食べられる人がいるというところ。

 彼らの文化で言うところの食人文化は他文明を襲い、家畜化した人を食べるというものだ。

 当然、この世界にはその家畜化された人というものも転生してきているが、当然彼らの手の届かない場所に現れる。

 彼らでは回収しきれない。

 とどのつまり、彼らがこの保存協会に申請する目的は、保存対象になることによって被食人の安定した供給なのだ。

 マニュアル通りならば、どれだけ理解不能な文化でも、それは彼らの文化なので、否定することは失礼に当たる、なので、笑顔で対応し、適切に保護せよとのこと。

 この協会のこういうところが嫌いだ。

 音楽や絵画といった芸術性の高い、それも多数の世界で認められるような文化と、こういった、言っても悪い気がするが、未開文明人の未発達な宗教的な文化も同列に扱い、同じように保存する義務がある。

 ボクに言わせれば暇をもて余した完璧主義の金持ちがする趣味の悪いコレクションのようなものだ。

 話を戻そう。

 この食人文化を保存してくに当たって、問題となるのが供給される被食人の生産。

 本当は文化としてはこの被食人を生産する人間牧場の方を保存した方が価値があるようには思えるが、繁殖の段階で躓いてしまうのでこれは手法を文献として残すだけだ。

 過去にももちろん食人文化に該当するものは登録されていて、どうやって登録したのかを調べて見ると、人型にした別の動物の肉を支給したりしていた。

 そんな方法もあるのかと思って申請者に提案してみたが、殺し解体するところも文化だと言って聞かないので、生きている被食人を提供する必要があるようだ。

 幸い、不幸中のほんの小さな幸いだが、彼らの食人は年に一度。

 年に一度だけ食べられたいという人間を募って提供する、というのも考えてはみたが、供給の不安定が気になる。

 一年に一度、絶対に食べられる用の人間を提供してくれるところとか無いかねと、過去の登録一覧を眺めているといいものを見つけた。

 生け贄文化だ。

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