第318話:ハーラナ-ヤーナⅡ〜全身サイボーグさん〜
「先生!急患です!」
「うち病院じゃねぇんだけど?」
改造義肢工房ですけど?
「それが、患者がこれでして」
そう言って担架に乗せられて運ばれてきたのはスクラップと表現したくなるような鉄の塊。
いくつかゴムのチューブが繋がっている。
なんとなく人の形にも見えないことはない。
「こりゃあ、なんだ、ゴミか?」
「なんでも全身サイボーグだそうです、病院で最低限の治療はして生命維持に問題は無いそうですが、ボディがこの様なものでして」
ああ、全身サイボーグね。
それなら確かにうちの管轄かもしれない。
「状態を報告してくれ、病院から流れてきたのならカルテとかあるだろ」
状況次第だが、最低限の治療はすんでいると言っても所詮生身相手の医者とシステムだ。
程度にもよるが、全身サイボーグは人間ではない。
特に脳以外を全部機械化しているやつなんて、医者には直せんだろ。
「患者のボディはシスロックス社のパルー434、純正かどうかは判断不能。これは向こうの設備ではここまで破損した義体の解析はできなかったということのようです」
そらそうだ。
「サイボーグ率は99%、脳の一部を電子補助脳に置き換えまでされているそうです」
「そこまで行ってよく生きているもんだ」
改造途中で違う命に変わったと世界のシステムに判断された瞬間に死ぬような世界だ。
さすがにここまで進めたサイボーグは始めて診る。
「んで、どういう経緯でこんな姿に?」
「事故ですね、誰かが使った転送魔法の転送先座標の真下にいたらしく、大質量のそれに潰されたそうです」
なるほど、パルー434をこんなにするとは相当な質量の物体だったんだろうな。
「破損箇所は、」
「診りゃあわかる、ほぼ全身、頭部はなんとか無事だな。さすがに丈夫に作られている。あとは医者がどういう処置をしたかだけでいい」
「はい、生体脳を維持するため、人工心肺を繋いでいるそうです。型式はチュコー3312」
チグラ社の製品か。
信頼性は高いし、普通の人間相手ならこれでいいだろう。
ていうか病院だったらこんなもんしかないだろうな。
「ようしわかった、とりあえずこいつと話がしたい。修理にあたってどんなボディがいいとか財布事情もきかねぇといかんしな」
とすると、適当にもうすぐ処分する在庫ボディに脳を移植して、本格的な話はそっからだな。
「というわけでだ、俺があんたの体の修理を担当する義肢技師のヤーナだ、よろしく」
「……よろしく」
自分の声が普段と違うことに戸惑っているような声だ。
よくある話だが。
ボディを換装後の違和感、なれるまで時間がかかる。
あたりまえのことだが、まぁ、こればかりは少しかわいそうにもなる。
「なんで、こんな体に……」
その声は、高い少女の声。
口調は粗雑な、男らしいものだ。
売れ残っていたボディは、少女ドール型のものしかなかった。
メーカーが売りに来たときは結構売れる気がしたんだけど、うちの客層にはまったく受けなかったんだよな。
ボディを換え、やっと意思疏通ができるようになった全身サイボーグは。パルー434なんてゴツいボディを使っていたことからもわかっていたが、男だ。
今の腕も脚もまるっこく、短めに作られている少女ドール型のものなんてみたこともないような奴だろう。
「その体に不満ならさっさと新しい体を買え、その体は処分直前のもんだからサービス価格で97%引きにしてやる。性能だけなら結構高いんだぞそれは」
なんだかんだで、全身サイボーグには新しいボディを買う経済的な余裕等なく、そのままの少女ドール型のボディで帰ることになった。
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