第317話:ルーニード・モンスⅥ~おかしなな裁判〜
「被告人は前へ」
現在俺は裁判所、被告人席にいる。
つまり、法に触れて訴えられ、否認し、弁護人をつけてもらい、俺が罪人だと主張する検察官と、戦わなければならない。
もちろん腕っぷしではなく、法に則って、言葉で無実を証明する必要がある。
味方は見ず知らずの弁護人が一人、この席にたつ少し前に会ったばかりの他人だ。
さて、どうしてこうなったんだったか。
話はⅠ時間程前に戻る。
「今日はどこへ?」
ターミナルで顔見知りの嬢ちゃんに訊ねられる。
「シュイカにちょっとな、大した依頼じゃないから日帰りってところだ。嬢ちゃんの今日の仕事終わりに間に合うといいんだが」
「一緒に食事とか行きませんからね」
「つれねぇなぁ」
そんな軽口を叩いていると、嬢ちゃんが思い出したように言った。
「そういえば、シュイカで思い出したんですけど」
「なんだい、土産でも買ってきてほしいのか?」
「違います、シュイカはこの世界では珍しく法律に厳しい国で、旅行者の7割が逮捕されるそうですよ」
「逮捕ね、久しぶりに聞いたなそんな言葉」
この世界に法律は少ない。
全員一度死んだ身であるということと、様々な世界の常識全てをカバーできる法律というのが作れないというのが理由らしい。
同じ世界の人間が集まって暮らしているタイプの国や町ではその世界の法律が通じるところもあるみたいだし、シュイカもその類いなのだろう。
そう、気軽に考えてシュイカへ繋がるゲートを潜った。
そしてよく分からない罪状を突きつけられ、体に縄を巻かれ、腕と脚を拘束、口も塞がれてどうにか鼻だけで呼吸している状態になるのにⅠ時間もかからなかった。
そのまままったく意味のわからない手続きを隣で勝手にされ、勝手に指紋もとられ、そのまま訳のわからないままに今、裁判所に立っている。
脚の拘束は解かれたが、腕の自由は効かず、口も許可されたときにしか開かないようにされている。今のところ名前を聞かれたときに一度開いただけだった。
裁判官が最初に一言裁判の始めに決まって発言するらしい呪文のような言葉と唱え、裁判が始まった。
「被告人、ルーニード・モンスは当国の法律に違反する行為を働いた、罪状は…………」
以降14個の身に覚えはあるが、それを法律で制限していること事態に驚くような内容の罪状が読み上げられた。
「よって、被告人を死刑とする」
なんだって?死刑?
聞いてねぇぞ嬢ちゃん。
逮捕されるかもとは聞いていたが、死刑になるとは聞いていない。
「弁護人、反論は?」
まずは裁判官が弁護人に聞く。
「まず被告人がシュイカ国民でないこと、それにより彼は当国の法を知らなかったということ」
そうだそうだ、この国以外では誰もが行っているようなことを法律に定めな
いでくれと言ってやれ!
ていうか、そんなことで死刑にするなんておかしいって言ってくれ!
自分で言いたかったが、口が塞がれているため発言はできなかった。
「よって無期懲役、かつ強制労働が妥当だと主張します」
まて、死刑よりは幾分マシだが、それもさすがにあんまりだ。
知らなかったというだけで奴隷にされる法律ってなんだよ!
「なるほど、知らなかったのなら仕方ない、か。労働のランクは5、いや7辺りにするか」
労働のランクが7だって?
いったいいくつまであるのかはわからないが、どれだけ細かく分けても10ぐらいなんじゃないか?
それの7て。
「被告人、なにか言いたそうな顔をしているな?」
そうだ、言わせてくれ!
こんな裁判おかしいぜ!って。
「被告人に発言を許可する」
お、許可してくれるのか、よし、言うぞ!
「強制労働で許してくれるんですか!?」
おい、どうした。
俺の口が、いや、俺の口を塞いでいる猿ぐつわが勝手に俺の声で叫びやがった。
本当にどうなっているんだこの裁判は!
「待てい!」
突如、背後の傍聴席から声が上がった。
なんだ!?と思ったのは俺だけではないようで、裁判官も弁護人も今まで一言も発していない検察官も驚きの表情を見せて「何奴!」と叫び、なぜか傍聴席の人たちはおおー!と歓喜の声を上げた。
突然裁判に乱入してきた奴の正体はわからん、一言で言い表すのなら不審者、いやああいう服装の文化は結構あるが、そのどれとも細部は違った。
つまりは正体不明、装飾過多の謎の全身タイツ男だ。
「くそぉ!言いがかりの罪で奴隷を一人手にいれる作戦が!」
なに、やっぱり言いがかりだったのか。
「もう大丈夫だ。私が来たからにはもう安心!」
謎の全身タイツマンはそんなことを大声で言いながら、俺のところまで来た。
そして耳元で、「何も伝えずに巻き込んでしまってすまなかったね、被害者役はなにも知らない方が自然な演技ができるから、仕方なくね」
その声は、知っている声だった。
そう、今回の依頼人だ。
そのあと、怪物に返信した裁判官弁護人検察官の三人を必殺技で爆散させたタイツマンは、歓声を受けて去っていった。
そして、全部終わった後に俺にもう一度だけ謝りに来た。
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