第303話:メクノ・マス〜私が正義だ〜

「貴様、規則は知っているな?」

 背筋は伸ばして歩くべし。

 違反者を発見したので、指導を開始する。

「あ、もちろんじゃないですか、あはは」

 猫背気味の男はひきつったような笑いを浮かべる。

 これも規則違反だ。

「ならば、この次にどうするべきかもわかっているはずだな?」

「も、もちろんじゃないですか」

「ほぉ、ではやって見せよ」

「っ……」

 おそらく規則帳を読んでいないな。

 そもそもなんの規則に違反したのかもわかっていなさそうな顔だ。

「規則帳を出せ、職員は必帯のはずだが?」

 当然持っているはずだ。

 私の持っている規則帳を出し、自らの規則帳を出すように促す。

「あの、えーと、ですね?」

 視線があっちへこっちへと泳ぐ。

 どうやら携帯していないようだ。

 全く嘆かわしい。

「猫背、引き笑い、虚偽申告、規則帳不携帯、数えて4つの違反だな。では罰として規則帳の写しの作成、もちろん手書きで、3言語各5部ずつ。さて、なにかいいわけはあるか?それが規則に違反することもあるがな」

「ありません……」

「よろしい、作業部屋は1-87室だ。逃げたら次の実験の被献体は貴様だ」

「…………」

 彼は無言で指定された部屋に向かう。


 まったく嘆かわしい。

 既に3言語の規則帳が各30部できる予定になっている。

 ここまで規則違反が多いとは思わなかった。

 今までが甘すぎたのだ。

 取り締まりを強化した初日ではあるが、事前の連絡にすら目を通していないのではないか。

 既に不満の声が上がってきているが、気にしてはいけない。

 規則を守ることは正義であり、私の行いは正義の行いなのだから。

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