第280話:オルマン=イッカク~暴力喫茶店、暴力担当~
「というわけで、君にはあの喫茶店を手伝ってもらいたい」
私がたまに世話になっているおっさん、それ以外にも色々と肩書きの多いそいつは唐突に言い放った。
「いや、全然どういうことかわかんねぇんだけど。」
「ふむ、そうかね?」
「というわけでっつー言葉は口を開いて最初に言う単語じゃあないと思うぞ」
「それはそうだ、それよりも前の台詞は私の頭の中にしかない、出力していないからな」
そうだ、こいつはそういう奴なんだ。
言う必要なことでないと判断したことは頭の中に止めて口には出さない。
そして、こいつがそう判断したことは大体正しく、確かに私には「というわけで」の前に言うべきであっただろう言葉は必要ないほどに、こいつの言おうとする意味がわかっているのだから。
「つまりは、あいつのやってる喫茶店が最近客が増えてきたから手伝ってやってくれ、そういうことだろ?」
「7割りだな、思惑通りにいかせるには十分な理解だが」
「なんだ?まだなんかあるのか」
「いいや、君に言うべきことはあと1つ。あの店は君の思っている以上に繁盛していない」
「じゃあなんで手伝わなきゃいけないんんだ?」
「それがあとの2割に当たる、行けばわかるさ。行っただけではわからないかもしれないがね」
「わけわかんねぇな」
「向こうには私から話を通してある、気が向いたら今日からでもいいから働きに行くといい」
私が返事をするのも待たず、そう言っておっさんは去っていった。
「なんなんだ……」
おっさんが言っていた喫茶店、それは聞くまでもなくあの店だ。
喫茶店【フォーレトルーン】
メーティカが店長をしている、通称暴力喫茶店。
最近少し客が増えたと聞いていたが、繁盛しているわけじゃないのか。
久々にその店に来て、そのドアを開ける。
内装は記憶にある通りのままで、変わったことは少し奇妙な棚が増設された
ぐらい。
客は一人もいない。
「いらっしゃいませ、って、ああオルマンさんじゃないですか、お久しぶりですね」
「おう、そうだな。最近は客が増えたって聞いてたが、誰もいねーな?」
特に今は喫茶店が空きやすい時間というわけでもない。
この時間に客がいないとなると、繁盛しているというのは勘違いだったらしい。
「まぁ、そうですね。多分、今日はもう少し遅い時間に3人、もしかしたらあと1人ぐらいでしょうか」
「これまでには?」
「今日はまだ誰も」
「そうか」
ここまで客が少ないとは思ってなかった。
じゃあなんでおっさんは私にここを手伝えなんて言ったんだろう。
「で、何を飲みます?」
「いや、客じゃねーぞ?」
「え?」
「あ?もしかして聞いてないのか?」
「何を、誰から?」
「おっさんから、私がここで働くってこと」
「聞いてません」
「はぁ、なるほどな」
おっさんはそういう奴なんだ。
これも、話は言う必要はないと判断したとか言い出すんだろう。
本当にそうか、私にはもうわからなくなってきたが。
「どういうわけかわからんが、おっさんが私にこの店を手伝えって言ってきたんだ、話は通してあるとか言ってたが、なにも聞いてないんだな?」
「ええ、なにも」
「だよなぁ、まぁいいや。おっさんは次会った時に殴ればいいんだから。とにかく私はここで働くことになったんだ、よろしくな」
「よろしく、といわれましても制服もありませんし、」
「これ、じゃない?」
突然子供が現れた。
こんな以前はいなかった気がする。
「ああ、この子ははメイナム。オーナーが突然ここで働かせるように、と送ってきた子で……」
まえにもやらかしてたのかあのおっさんは。
「って、それどこから持ってきたんだ子供よ」
「トランスポーターに、今、届いた」
私が話をつけるタイミングまでお見通しか、どうなってるんだあのおっさんは。
「じゃあ、すぐ着替えてくるからな」
「あ、はい」
メイナムから制服を受け取って着替えに店の裏に入る。
「これ、男物じゃね?」
なぜか渡された制服は男物だった。
確かに私はヒラヒラした服が苦手で、メイナムが着ているような服でないのは助かったが、それでいいのだろうか。
「いいじゃないですか、似合ってますよ」
「まぁいいんだけどよ。で、たしかこれが鳴ったら殴ってもいいんだよmな?」
そう、制服と一緒に渡された腕の輪っかを見せる。
「そうですね、最近はなってないんですけど」
「まぁ、鳴らなくても殴っちまうかもしれんが、そんときはそんときだ」
「やめてくださいよ、お客さん減っちゃうじゃないですか」
これ以上減る余地もあるものか。
最初の客が来るまで一通りの仕事内容を説明された。
いつまで経っても客は来ず、基本的なことは全て聞いてもたっぷりと時間が余った。
「お客さんが来るまでゲームでも、どうです?」
そういってメーティカは棚から私も知っている、というか私の元いた世界で流行っていたボードゲームを持ってきた。
「なんでそんなもんがあるんだ」
「いろいろありまして」
棚をよく見てみると知らない多種多様なボードゲームが並んでいた。
メーティカはこのゲームの基本的なルールは知っているが、あまり槍なれている様子ではなく、圧倒的とは言えないほどだが私の方が優勢でゲームは進んだ。
あと数手、まだ確定ではないが私がミスをしなければ勝てるという局面になって、ドアベルがカランカランと鳴り、私の腕のセンサーが鳴った。
その音は何かが切れるようなそんな音で気がついたら、ドアベルを鳴らした男は倒れていた。
「あーすまん。これがこの店のルールだ」
先程のメーティカの話と合わせて考えた結果、なんとなくあのおっさんが私をこの店に送り込んだ理由がわかったような気がした。
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