第278話:カシファン-マーナシアⅢ~哲学的台詞当てクイズ~

「高次世界は観測できないだけで存在しているが、それを証明することはできない」

「えーと、メメルコマン!」

「正解、次は――」

 今日は暇なので、考えるには時間がいくらあっても足りないが、考えなければならないことはないので、思考リソースを無為に消費するために友達と哲学的名言が誰の言葉だったかを当てる遊びをしている。

「光の届かぬ距離には声も届かぬ」

「えー?ちょっと待って、カバソク?」

「はずれ、正解はクルシャアム。カバソクは光はあれども目は届かぬ、ね」

「そっちかぁ」

 朝からずっと続けていて、結構ネタがなくなってきた。

「じゃあ次は私ね。働くということは生きる糧と生きる理由の両方を得る最も簡単な方法だ」

 簡単な問題だ、これは

「ソムナック、だよね」

「正解、それにしてもさ、この言葉すごいよね」

「何が?」

「だってさ、この世界には働いてないヒトの方が多いぐらいじゃない?なのによくこんなふうに断言したよね」

「いやいやいや、この言葉は彼の生前の言葉だから。彼の世界は失業率と自殺率がとても高い世界で、働けないヒトは飢えて死に、金持ちの子供は自殺するっていう世界だったんだって、それを揶揄する言葉なんだよ。不勉強だよ」

「へぇ、そんな背景があっての言葉だったんだ。カシファンはよく知ってるね」

「初めてこの言葉を知ったときに疑問に思って考えたからね」

「考えたの?」

「うん、私が考えたの」

「じゃあ本当の意味は?」

「知らない」

 そういえば納得できる理由を思い付いて満足してしまって本当のところを調べてないなと思い出す。

 自分の解釈を見つけて納得して本当の意味を調べないのは悪い癖かもしれない。

「ちょっと調べてみるね」

 携帯端末デバイスを使ってポスポスと調べる。

「ソムナックの言葉、前半部分が有名で、ヒトを労働意欲に駆り立てるのによく引用されるが後半は、働かずとも糧を得られ働く以外に生きる理由があるのならば働くことは最も愚かなことである、と続く。ソムナックがなぜ働かないかと問われた際に答えた言葉である。だって」

 ……なるほど、ソムナックという哲学者はそういうヒトだったのか。

 知らなかった、これは他にも意味を勘違いしている言葉が多そうだ。

 しかし、

「言葉っていうのはね、発言者が何を意図して言ったかより、受け手がどう受けとるかという方が重要なんだよ」

「ベスウガモね」

「……正解」

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