第274話:ニビィ〜俺より強い奴に愛に行く〜

「お前の事が好きだ」

 以前より気になっていた女性に愛を告白した。

 彼女は美しく、鋭く、輝かしく、愛らしさは足りないが、何よりも強かった。

 先日彼女と戦い、そして敗れた。

 そこで惚れたのだ。

 美しさも、するどさも、輝かしさも、その強さを持ってすれば魅力でもなんでもない。

 つまり、俺は彼女の強さだけに惚れたのだ。

「というわけなのだのだが、どうだろうか」

 なにに惚れたのか、なぜ好きになってしまったのかこと細やかに説明する。

「だめですね」

 ダメだった。

「なぜだ、世界が違うからか、俺が君の好みの顔でないからか、それとも、」

「あなたが私よりも弱いからです」

 その言葉は俺にとって彼女の拳以上の衝撃だった。

「ならば、君よりも強くなれば良いのだな?」

「そうですね、あなたは顔も悪くないし体つきも良さそうですし、誠実そうです。なら、後は強くなりさえすれば良いですよ」

 そういうことならば、

「今ここで、手合わせ願おう!」


 惨敗


 その後も鍛えて特訓をして、体調を整え、予定を合わせ、何度も何度も彼女に挑戦した。

 彼女はその度に快く付き合ってくれて、俺はその度に負けた。

 強く、もっと強くなりたい。


 何度目かもわからぬ挑戦の末、やっと彼女に勝つことができた。

 彼女も驚いた様子はなく、やっとかという表情。

 なの、だが。

「やっと負けられました、では約束通り」

「すまない、そのことなのだがやはり無しにしてはもらえないだろうか」

「なっ、なぜです!?」

「最初に言ったように、俺は君の強さだけに惚れたのだ。君に勝ってしまい、君が俺よりも弱いとなってしまうと、なぁ?」

 不思議と好きだという気持ちが薄れてしまった。

「なるほど、わかりましたよ。次は私の番だってことですね。絶対にあなたに勝ってもう一度惚れ直させて見せます!」

「いいだろう、一度冷めてしまったこの思い、もう一度再燃させて見せてくれ!」

 その場で挑戦を受け、勝った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る