第272話:メギルア〜魔神召喚〜

 部屋に魔神、魔人、悪魔、その他諸々の名前で呼ばれるような存在を召喚してみようと試みて数日。

 この世界では召喚術等が殆ど使えないということがわかって、新たなアプローチをすることにした。

 この世界へ転生してくる場所には法則があるらしい。

 多少の例外はあれど、元いた世界に近い環境がある場所に転生卵が出現する。

 文明の進んだ世界のヒトの転生卵は都会にあるターミナルへ、自然と暮らしていたようなヒトは森の祭壇、実際はターミナルと同じ管轄だが環境の違うポイントへ、野性動物はヒトの少ない森や平原、荒れ地に。

 細菌や微生物はそれぞれが生きていくことのできる生物の体内や土の中に転生するらしい。

 料理がキッチンに出現したという話も結構聞く。

 そこで私が考えたのは部屋の環境を魔界、魔人や魔神、悪魔の住んでいそうな環境に変えてやれば、私の部屋にそれらを召喚することができるのではないかと。

 そんなわけで今の私の部屋は魔界のような雰囲気になっている。

 具体的には暗めの紫色の照明を使い、部屋の隅には毒沼が、腐った倒木、そしてシェイードという魔神とかの生活域の空間を圧縮した空気アイテムを所々に配置して魔界よりも魔界という部屋になっている。

 これでそのうち私の部屋に魔の付く存在が現れて私の願いを叶えてくれることだろう。


 部屋を魔界仕様にして1つの季節が始まって終わり、その時私は病院のベッドにいた。

 シェイードから漏れ出る空気が私の体を蝕んでいたらしい。

「なんであんな部屋に住んでいたんだい?」と、医者には不思議そうに言わ

 れたが、「趣味で」としか答えることはできなかった。

 しかたないから、退院したらシェイードは捨てることにしよう。

 残念だけど、他の要素でうまく転生場所を誘導できるのを祈る。


 更に数日経ち、無事とは言い難いが退院。

 家に帰る前にマスクを装着する。

 今の状態でまたシェイードから出た空気が充満している部屋に無防備に入るのは危険だと、医者が用意してくれた物だ。

 私も、さすがにまた死ぬのはゴメンなので、しっかりと漏れなく装着できていることを確認し、シェイードを破棄する用意をして扉を開けた。

 空気に色は付いていないが、自動で点った部屋の明かりが染み込んで紫に見える気がする空気が吹き出してきた。

 入院している間もシェイードから魔界の空気が漏れ続けていたのだ。

 部屋を開けたらこうなるのは当然と言えば当然だった。

 マスクをしていなかったら死んでいたかもしれない。

 部屋に飛び込んだ私は手早くシェイードを全て密閉容器に放り込み、それを見た。

 部屋の隅の毒沼に、黒紫の縞が入った卵が浸かっているのだ。

「あ……、これって、もしかして」

 そう、魔の付く卵ではないだろうか。

 待ち望んでいたそれを認識し、少し意識が緩んだ私は手に持ったシェイードの容器が膨らんでくるのに気づかなかった。

 濃い魔界の空気が割れた容器から顔に向かって噴出し、マスクをしていたにも関わらず、私はまた気を失った。


「む、起きたな」

 目をさますと病院のベッドの上、ではなく自室。

 声を掛けてきたのは、誰?

 そう、寝たまま首を声のした方向に向けると、黒髪で顔色の悪い、どこかで見たことのある、どこかの世界の礼服を着た男が居た。

「少し空気が悪かったので換気をさせてもらった、よかったかね?」

「は、はい。あの、あなたはもしかして、」悪魔ですか?

 そう聞こうとしたら、それよりも先に。

「我はマリウス、ヒトは我を悪魔マリウスと呼ぶ、少し話を聞かせてもらっても良いか。状況が掴めんのだ」

「喜んで!まずは何から話しましょうか……」

 その後、自分が転生したときにターミナルで聞いた話をマリウスにし、情報の対価をくれる 、悪魔の力で願いを叶えてやるというので、私が以前より望んでいたそれを口にした。

「受理した、それでは、む?」

 願いを叶ようと、続けるのかと思ったら、なにか様子がおかしい。

「どうやら、死んで生まれ直したばかりだからか、力が弱い。今すぐにはその望みは叶えられそうにない」

 なんと、力が回復するまでうちで暮らすと言うのだ。

「悪魔とは、契約者の願いを叶えるまで側にいるのが普通なのだ、そういうわけだ。しかし、この部屋はなぜこうも悪環境なのだ、ヒトの生活する空間ではないぞ?それとも、君の世界はこういう世界だったのか?」

 待ち望んだ悪魔と、共同生活を送ることになり、最初にしたことは部屋の模様直しだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る