第271話:キューケ~高速レーサー~

「はーはーはっはーあーはあーっはー!!」

 笑い声が後ろへ飛んでいく、それほどの速さで走行中だ。

 見える景色は歪み、車体の外側は触れる全てを擦り削る空気の刃、そんな速度で走る車がもう1台。

 俺の車体の狂おしい程の赤に対し、奴は滑るようなブルー。

 お互い近い速度で走っていて相対速度はほぼ0だから普通に視認できているが、外から見たら赤と青の線が風景消失線まで延びているようにしか見えないだろう。

 俺と奴は仲良く超音速ドライブしているわけではない。

 これはレースだ。

 超音速どころか光に近づく亜高速レース。

 ひたすら平原が続くコースを設定して、極限速度での物理的最高速度でのレースだ。

 もちろん直線だけではないし、コース上には障害物も(車体に接触した瞬間消滅するが)存在する。

 障害物は消滅させるのも迷惑なので避けつつ、できる限りの超高速で走り、ゴールを目指す。

 何度も何度も続けてきたレースだ。


「今日の勝負は俺の勝ちだな」

 ゴール地点に先に着いていた青い車体のレーサー、カモンヌが笑いかけてくる。

「障害物の配置が悪い」

 今日の敗因はこれに尽きる。

 そもそも最近は両者の実力が最高位で拮抗しているから、殆どが運の要素で勝敗が決まっている。

「運の要素でしか決まらなくなってきたし、そろそろ新しい要素を考えないか?」

 さすがにこれではもうつまらないだろうと、提案する。

「いいだろう。どんなルールを増やす?」

 乗って来た、やはりカモンヌも気になっていたようだ。

「ルールは考えるのに時間がかかるし、コースを変えるとかどうだ?」

「コースをか......変えると言ってもどう変えるんだ?他に使えるルートなどあるだろうか」

 今のコースは平地を辿って長い円形のコースにしているのだが、他にこの規模のコースがとれる平地など無い。

 二人の知る限りでは、だが。

「このコースを設定した時ではまだ平地しか走れないんじゃないか、なんて言って決めてたけど、お互い大分技術も向上したし、平地以外を走ってもなんとかなるんじゃないだろうか」

「よし、それでいこう」

 この後二人で新しいコースを決めて走ったところ、ちょっとした斜面を上っただけで空中に放り出され、危うく死ぬところだった。

 そのためしばらくレースは中止になった。

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