第245話:タム‐リーリャンⅡ〜深海の人〜

 深海に来てからずいぶんと経った。

 最後に日の光を浴びたのはいつだっただろうか。

 水中での暮らしにも慣れてきて、もういっそのことずっとここで暮らしてもいい気がしてきた。

「あー! こんなところにいた! なにやってんの、今日は探索に行く日でしょうに」

 ゆったりと空気室の中でサムラスープを飲みながら地上を懐かしんでいると彼女が飛び込んできた。

「すぐに行くよ」

 そう言って残ったスープを一気に飲み干し、水中に飛び込んだ。

 彼女はずっと探索に協力してくれている警備兵なのだが、いや、だったのだが、探索の途中で予想してもいなかった財宝の類を発見して契約通り全部を彼女の物に、その結果彼女は仕事を止めて悠々自適な生活をしている。

 なのに、週に1度の探索は積極的に誘いに来る。

 何故なのか、もはや彼女には僕に付き合って危険な海域に足を伸ばす必要はないはずなんだが。彼女にはそもそも足はないが。

「何故、大金持ちになってなんでも好きなものを手に入れられるようになったのに僕に協力してくれているんだ?」と聞ければ楽なのだろうが、それでもし「え?そういえば理由はもうなかったわね」とか言って協力してくれなくなるのも困る。

 どうしたものか。

「どうしたの? 何か悩んでるようだけど今週何かあった?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど」

「まぁいいわ、で、今日はどこを探しに行くの?」

「ああ、この辺りをもう一回細かく探してみようかと思うんだが」

 探しているものは手帳のはずだし、大まかに探しても見つからないだろう。

「ふぅん、たしかこの辺り最近コンザークが出るって話だけど大丈夫? 準備していった方がいいんじゃない?」

「コンザーク……?って何だ。危険な海獣か?」

「ああ、知らないのね。コンザークっていうのは服を食べる小さな虫よ。死んだ魚とか動物に集まるの。あの辺りに出るのは珍しいけど、でっかい魚でも流れてきたのかしら」

 虫か、そういえばここの人魚の服は魚の皮を加工したような物だ。

 そのまま突っ込んでいったら集られてえらいことになってしまうだろう。

 ん、動物の皮に集まる虫が普段はいない海域に大量にいる?

 噂に聞く目的の手記の表紙は確か牛皮、もしかするともしかするかもしれない。

「よし、急ごう。コンザークが集まっているところに目的の物があるはずだ」

「へぇ、そう。なるほどね。じゃあ私は今回はパス。1人でで行ってくるといいわ、コンザーク以外は安全なところだから」

「え、なんで?」

 突然探索に行かないなんて言い出した。

「もうだいたいの当たりはついたんでしょ? じゃあ私の協力はもう必要ないでしょ。もし、ハズレだったらまた来週は協力してあげるから、じゃあね」

 そう言って、彼女は泳ぎ去っていった。

 なんなんだ……。

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